最近硬いものが噛めなくなってきた・・、たまに歯ぐきが腫れる・・など歯のお悩みを感じている方も多いのではないでしょうか?そのお悩みは歯周病に特徴的な症状です。歯周病は歯を失う原因の一番目の病気です。
やっかいなのは自分では気づかないうちに歯周病が進行してしまうことです。テレビのCMなどで歯を支えている骨が溶ける・・というフレーズを聞いたことがありませんか?この記事ではレントゲン写真で骨が溶けている状態を解説しながら、なぜ歯が揺れるのか?歯肉が腫れてしまうのか?をわかりやすく解説していきます。
1.歯周病治療に何枚もレントゲン撮影が必要な理由とは?
歯周病で治療中に、「気になっている歯だけでなく他の歯もレントゲン写真を撮られた」、「この前撮ったのにまたレントゲン写真を撮った」、などの経験はないでしょうか?説明なくレントゲン写真を撮影されるのは嫌なものです。ここでは、「なぜ歯周病にレントゲン写真を何枚も撮影するのか?」をわかりやすく解説します。
1-1 歯周病とは歯を支えている骨を溶かす病気
歯周病とは歯と歯肉のすきま(歯周ポケット)から侵入した細菌により、歯肉に炎症が起こり、さらには歯を支える骨が溶けて歯がグラグラになってしまう病気です。歯周病はとても身近な存在です。日本人の35歳以上の成人の8割以上、小学生でも約4割が歯周病であると平成23年歯科疾患実態調査を行った厚生労働省が発表しています。5人中4人が歯周病。驚く数字ですね
1-2 レントゲンでわかること
歯の周りの骨の状態、歯の周りの組織の状態、歯の根の先の骨の状態、歯と歯の間の見過ごしやすい虫歯などがわかります。歯は通常親知らずを除外して上下で28本ありますから、お口全体の状態を知るには10-14枚ほど撮影しないと全体が撮影できません。
1-3 歯周病治療にレントゲン撮影が何枚も必要な理由
歯周病というのはお口の中の歯周病菌によって引き起こされる感染症です。まだ症状が出ていない他の歯にも歯周病菌によって感染している可能性が高いのです。歯周病治療は症状が出てからよりも、出る前の早い段階で治療した方が圧倒的に簡単に治ります。また、歯周病治療が奏功したかどうかを術中・術後に判断する必要があります。そのため、治療の段階にあわせてレントゲンを撮影する必要があります。
歯周病治療前歯周病写真
歯周病治療前レントゲン写真
歯周病治療後口腔内写真
歯周病治療後レントゲン写真
2.歯周病の進行を止める3つのこと
2-1 歯医者さんでブラッシング方法を習ってセルフケアの習慣をつける
プラークはお口の中で48時間後には歯石に変わり始めます。あっという間ですね。正しい磨き方と適切な道具を加えて使用することで健康な歯肉を維持できるのです。大切なのは日々のブラッシングなのです。歯医者さんで習うセルフケアには、ブラッシング以外にも、食事指導、生活習慣指導、禁煙指導などがあります。
2-2 定期的にレントゲン検査とクリーニングをしてもらう
実際にどの歯が歯周病なのか、どのくらい進行しているのかは歯周病検査なしでは正しい判断はできません。治療をするには歯医者さんでお口の中をきちんと検査してもらい、状態を把握することが大切です。検査の結果を記録し次回の検査時に比較してもらうことで、進行の有無を知ることが出来ます。また定期的にクリーニングをしてもらうことで、していない場合よりも4~5倍歯を失うリスクが減らせます。
詳しくはこちら→「もう怖くない!事前に知って安心 歯周病を調べるための6つの検査」
2-3 それでも進行が止まらない場合には、歯周手術をしてもらう
- 2をやっているのに進行が止まらない場合には手術をします。
- スケーリングでとりきれなかった歯周ポケットの奥の歯石を、歯肉を切り開くことでしっかりととり去ります。歯を支えている骨が吸収してしまっている場合には、骨の再生を促す歯周組織再生療法を行います。歯が長く見えるようになってしまった場合には、他の部分から歯肉を移植する歯周形成手術を行う場合があります。
3.歯科レントゲンの種類と費用
歯周病は「歯の周りの病気」です。歯の周りには何があるでしょう。歯を支えている顎の骨(歯槽骨)と骨を覆っている歯肉です。歯周病で歯がグラグラするのは骨が無いからですが見た目にはわかりません。骨の状態を見るためにはⅩ線によるレントゲン撮影は欠かせません。ここでは歯科で使うレントゲンの種類を説明します。
3-1 口内法X線撮影(デンタル)
3~4歯を撮影する小型のフィルムで撮影することで、精密な診断ができます。その部位を詳細に診断したい場合デンタル撮影を用います。歯科医院によっては10枚法、14枚法など、お口全体を細かく分けて撮影することでパノラマではわからない、細部の精密な写真を撮影する場合もあります。骨の吸収の程度や虫歯の進行など鮮明に診ることができます。保険適応で、費用は3割負担で150-180円程度です。
3-2 パノラマレントゲン撮影
左右の顎関節から上下の顎の骨、眼窩や副鼻腔など顎全体が撮影できる大きなレントゲンをパノラマと言います。歯槽骨の吸収(骨が溶けて下がってしまっている状態)の程度を診断するだけでなく、虫歯や根尖病巣(虫歯が進んで根の先に膿がたまる病気)の有無、埋伏歯(埋まったまま出ていない歯)の状態など、歯に関するあらゆる診断に必要です。費用は保険3割の方で1200円です。
3-3 歯科用CT
通常の歯科用レントゲンではわからない3次元の情報を用いて術前の顎骨の携帯、骨量、骨質がわかるCTはお口全体の状態を、立体画像であらゆる角度から診査することができます。神経や血管の走行位置や骨の厚みなど、「パノラマ」や「デンタル」の平面のレントゲンでは分からない部分も、「歯科用CT」であれば精密に把握することができます。保険適応の場合には、歯の根の治療、親知らずの抜歯、骨の中の病気の診断時に撮影し、費用は3割負担で3500円程度です。
インプラント目的の場合には、保険外適応で、歯科医院によって費用が設定されています。
3-4 セファロレントゲン
主に矯正治療で用います。矯正治療は保険外適応で、歯科医院によって費用が設定されています。
4.歯周病治療のレントゲン検査の被ばく量ってどれくらい?
放射線と聞くと、「こわいなあ」と感じる人も多いでしょう。歯周病治療で必要、といわれてもレントゲン検査による放射線量は気になるところです。
歯科用CTは撮影領域に左右されますが、おおよそ1回の撮影で0.08~0.1mSvです。これは東京―ニューヨークの往復20回分の飛行機移動の被ばく量と同等です。医療による被ばくは、患者の利益が被ばくの不利益を上回る場合に正当化されます。歯周病は放っておくと歯が抜けるだけでなく、糖尿や心疾患など全身疾患の悪化にもつながる可能性があるため、患者さんにとって有益であると考えられています。
5.まとめ
レントゲン検査では、目で見えない歯肉の下に隠された歯を支えている骨の状態がわかります。その骨をしらないうちに溶かしてしまうのが歯周病です。定期的に歯科医院で歯周病のメンテナンスを受ければ、歯がぐらぐらしない、歯ぐきから血が出ない、口臭がしない、おいしいものがなんでも噛めるなどなど、良いこと尽くしですよ!
参考文献 歯周治療の指針 2015 特定非営利活動法人 日本歯周病学会