歯並びって人によって違うけど、すごいきれいな人もいるし、ガチャガチャしている人いますよね。こういった違いはどこから来るのでしょうか?
実は歯並びが悪い=不正咬合は、遺伝的要因と環境的要因にわけられ、どれが原因なのかはっきりさせることできず、予防がとてもむずかしいのです
しかし、その中でもどうにか予防ができるかもしれない原因と、その改善法もあるので、それについて説明をしていきたいと思います
目次
1.予防できるかも?歯並びが悪くなる4つの原因
子供のころは身長がどんどん伸びて、歯もものすごくはえ変わりましたよね。成長期のころは、細胞分裂も活発で、身体はものすごく変化をします。実は、歯並びはこの子供の時期の影響を受けてしまいます
正しく成長をすれば正しい形に大きくなり正しい位置に歯がはえたのに、変な力が加わったために形が曲がったり歯がおかしな位置にはえてしまうのです
ちなみに、大人になってからも毎日変な力が加わったりすれば体の形はかわっていきます
これから説明する内容が自分に該当するかどうかチェックしてみましょう
1-1.癖の影響
癖というのは侮れません。毎日の癖による微々たる力によって、人の体の形が変わっていくのです
窮屈な靴で成長できないようにした纏足(てんそく)も、首にリングをすることで肩や鎖骨を下げた首長族も、同じようなものですね
お口の中も同じで、悪い癖からおこる慢性的外力が、口の周りの組織や歯に圧力として作用して不正咬合をおこします。
爪を噛む
爪を咬んだり、咬みきったりする癖は歯並びが悪くなる原因になります。これを咬爪癖(こうそうへき)といいます
爪を歯と歯の間にさしこむようにして咬むと、歯と歯のすき間が部分的に大きくなるので注意しましょう
咬爪癖は3歳ころから始まり、10歳くらいまでは無意識におこなっています。学童期の子供が爪を噛んでいても自然と癖はなくなっていくので、あまり心配する必要はありません。しかし成人になってもこの癖がある場合は、心理的な要因が原因となっている場合があります。治療する場合は心療内科などで専門の検査をする必要があります
舌を突き出す
舌の使い方がおかしい人がいて、2パターンに分けれます。
1つ目は舌を前に突き出し上の前歯を舌で押してしまう舌突出癖というもので、下の図を見ると上下の歯の間に舌が入り込んでいることがわかります。
2つ目はものを飲み込むときに、舌が前にでてしまう異常嚥下癖(いじょうえんげへき)になります
正常な嚥下は、上下の歯が接触し舌の先端は上の前歯の後ろに位置し舌全体が口の上側(口蓋)に接触した状態で行われます。それに対し、異常嚥下は上下の歯が接触せず舌を前に突き出し上下の歯の間に舌がはいりこんだ状態で行われます
下図が、正常嚥下と異常嚥下の比較の図となります
こういった口腔顔面筋の機能障害の改善には、口腔筋機能療法(MFT)が有効となります
MFTは舌や口唇の姿勢位を、患者自身のトレーニングにより理想的な行動パターンに変えることを目的としています
舌突出癖や異常嚥下癖は無意識のうちにおこなわれるため、行動パターンをかえることは難しくなります。MFTを成功させるためには、患者自身が“癖”に気が付き、自分から治そうという意思をもち、指導者が患者を良い方向へ導いていくことが必要となります
頬付けをつく・同じ方向で寝る
同じ方向に力がかかっていると段々顎の骨が左右非対称になっていきます。そうすると歯並びやかみ合わせに悪影響があります。なるべく同じ方向で寝ないように気を付けましょう
口呼吸
口呼吸をすると、舌の位置が下がったり口の周りの筋肉のバランスが崩れてしまいます。これが原因で、前方に成長する下顎骨が下方に回転するように成長してしまい、そのため前歯で噛めなくなるといった開咬(かいこう)がおこります。また、口呼吸をすると頬筋などの外側からの圧力が強くなるので、上顎の横幅がせまくなり前歯がでてきたりします。そうならないためにも鼻呼吸をするようにしましょう
どうしても鼻呼吸ができないばあいは、気道障害による口呼吸、巨舌などが考えられます。アレルギー、鼻腔充血、鼻腔閉鎖、アデノイド、扁桃腺肥大などが疑われるときは耳鼻咽喉科での治療が必要となります
指しゃぶり
小さい子はみんな指しゃぶりをしますよね。しかし3歳ころからだんだんしなくなくなり、5才になると癖はなくなります。できれば、3才くらいから指しゃぶりの頻度を少なくしたほうが良いでしょう
指しゃぶりをしているお子さんは、指にたこができています。指しゃぶりをするたびに保護者が「だめだよ」などと注意をしたり、指サックをしたりして治しましょう
指しゃぶりでかみあわせがおかしくなってしまったお子さん
1-3.歯がはえ変わる時期の虫歯や、早すぎる抜歯
歯がはえかわる時期に虫歯になったり、歯を抜くことになったら、虫歯で欠けた歯のスペースの分だけ、後ろの歯が手前に移動してしまいます。そうすると永久歯がはえるスペースがせまくなってしまいます
一番の予防は、毎日の仕上げ磨きと定期健診ですね。
気がついたときには虫歯があまりにも大きくなっていたら、すぐに病院に行ってください
もし、歯のはえかわりの時期ではないのに抜歯をすることになったら、永久歯のはえるスペースを確保するための補隙装置や義歯をつけることになります。
抜けてしまった歯の後ろに歯があるときに使う装置。ワイヤーでスペースを確保する
第一大臼歯が手前はえてこないようにスペースを確保する装置
たくさんの乳歯を抜くことになってしまったときは、入れ歯で永久歯がはえるスペースを確保します
1-4.歯が埋まっている
時々、歯が歯ぐきの中にうまっていることがあります。これを埋伏歯と言います。
それがあると歯並びが悪くなるので、あると分かったら、過剰歯のばあい外科的にとってしまうし、抜いてはいけない歯のばあいは外科的な処置と矯正を組み合わせて正しい位置にはえるように誘導しま
上の歯の犬歯がうまっているのでこれから矯正で治すことにした症例
1-5.ひどい歯周病
大人になってから歯が前にでてきた、歯と歯のあいだのすき間ができる方がいます。
それは、歯周病が悪化して歯を支える骨が少なくなったため、徐々に歯が前に移動したり、広がってしまったからなのです。
歯周病がひどい状態で矯正治療はできないので、まずは歯周病の治療が必要となります。歯周病が落ち着いてから見た目の回復をはかります。
2.予防が難しい遺伝の影響
ヒトは受精をすると両親からの遺伝子により決定された遺伝形質を受け継ぎます。しかし、顎顔面形態、歯の大きさなどのように変異が連続的ではっきりした段階に区別できない形質(量的形質)は、たくさんの遺伝子が関与しているので、個々の遺伝子の効果を分析することはむずかしくなります。さらに、量的形質は環境的要因にも強く影響をうけるので、かみ合わせは多因子性遺伝とよばれます
しかし、Lundstorm, A.F.が双子を用いた研究で、顎顔面口腔領域では次にあげる形質の決定に遺伝が重要な意義を有するすると述べています
このことから、親御さんや親戚に下に列挙した特徴があったら、遺伝の影響が自分に及んでいる可能性が考えられますね
- 先天奇形
- 顔面非対称
- 大顎症および小顎症
- 巨大歯および矮小歯
- 部分的無歯症および完全無歯症
- 歯の形態異常
- 口蓋裂および唇裂
- 小帯異常による正中離開
- 過蓋咬合
- 叢生と捻転歯
- 下顎後退
- 下顎前突
リンク「歯並びが悪いあなたへ~治し方から原因まで教えます~ 」
2-1.実在した?!41人以上にしゃくれが遺伝した家系!
下顎前突という、下顎が大きい形質があります。この特徴は、常染色体優性遺伝によるものと考えられ、ハプスブルク王家は18世代にわたり41人以上に遺伝したとされています
A)チャールズ5世とB)ハプスブルク家の家系図
方形は男、円は女、黒塗りが下顎前突症発現の固体
※がチャールズ5世
研修医のとき、「自分がしゃくれているから子供に遺伝したら嫌!」ということで、お子さんを大学病院の矯正科につれていった親御さんがいらっしゃいました。下顎は成長期に大きくなり、成長後に顎の骨を切る手術をさせたくないから、小さいころから顎外固定装置という大きな矯正装置をつけていました。
あれから何年もたちましたが、少年の顎の成長が抑制されたのか気になります…
とにかく、下顎前突の遺伝要素が気になる親御さんは、早めにお子さんを矯正にとりかからせましょう
3.矯正治療の一例
電車で座っているとき、標準体型の成人が7人座っているときは快適ですよね。しかし、ちょっとふくよかな人が隣に座ると、申し訳ないけどちょっとせまっくるしいですよね。逆に子供が何人か座ると椅子のスペースがあまりますよね。
歯並びもこれと同じで
椅子=顎のサイズ
人=歯のサイズ
となります。
歯並びが悪くなるのは、椅子と人のサイズがあっていない=顎と歯のサイズがあっていないことからおこるのです
また、顎のサイズがおかしいこともあります。
上の顎は普通サイズなのに下の顎が小さめサイズのときがあります。そうなると上下のかみ合わせがわるくなります
歯並びとかみ合わせは、上下の顎のサイズがあっていて、上の顎と歯&舌の顎の歯のサイズがあっていることによってもたらされるのです。そのバランスがくずれると歯並び(かみ合わせ)が悪くなるのです
3-1.歯が大きい人
歯が大きい人は、歯が斜めにはえたり、重なったりします。これは、歯のはえるスペースがないからです。お相撲さんが電車の椅子に7人座ろうとしているのをイメージしてください。ぎゅうぎゅうなのが容易に想像つきますね…
歯が大きい人は、子供のころに大きな歯がはえるように顎を大きくするか、成人してからマルチブラケットなどを使用して抜歯矯正をすることになります。
前者は顎=椅子のサイズを大きくする処置をする方法で、骨の成長途中の子供のころにしかできません
後者は顎=椅子のサイズはかわらないので、歯=人を間引いて(抜歯して)歯並びを治す方法です
おそらく後者の治しかたをする人が大体ではないかと思われます
マルチブラケット装置
3-2.歯が小さい人
歯が小さい人は、歯並びは悪くないことが多いですね。しかし、歯と歯のあいだにすき間ができやすくなるのでそれを気にするかたがいらっしゃいますね
かみ合わせが悪くなく、歯のすき間だけが気になる人は、すき間をうめれば治療がおわります。治療は、コンポジットレジン、ラミネートべニア、クラウンなどがあげられます
リンク「すきっ歯の矯正方法とその他の治療法」
3-3.上顎が大きい人
上顎が大きい人は、見た目が出っ歯になりやすいですね。明石家さんまさんとかをイメージしてください
上と下の顎のサイズが合っていないので、かみ合わせが悪くなります。
前歯で物をかめないオープンバイトや、横から見た時に鳥のように上唇がつきでているように見えます
上顎が大きい人といっても、色々なパターンがあるので断言ができませんが、このような人は一般的な矯正をして上顎の前突感をなくしたり、下顎を骨切りしたりします。また、小さいころに顎の成長を調整する方法などもあります。
下顎をきって下顎を手前にもってくる方法
3-4.下顎が大きい人
下顎が大きい人は、アントニオ猪木さんのようになります。かみ合わせは悪くなります
下顎がでている
マルチブラケット装置などで治る人もいますし、骨を切らないと治らない人います。また、子供のころから顎の成長を抑制する方法もあります
赤い線で骨を切って上顎と手前を移動させる
3-5.上下顎が大きい人
上下ともに顎が大きい人がいます。こういう人は口元がものすごく出っ張っている見た目になり、唇を結べなくなります。データがないので何とも言えませんが、月曜から夜更かしに出てくるクソ出っ歯さんはこのタイプなのではないかなーと思います。このような人は抜歯矯正をしたり、骨切りをすることになります。
4.まとめ
以上が歯並びが悪くなる原因についてになります。
歯と顎のサイズが適正なのかは成人になって体の成長がとまるまで分からないところがありますが、癖によって引き起こされる歯並びの悪さは自分で予防ができますね。
大人になってから歯並びが悪いかなーと思っている人は、こういったネットの情報だけでは絶対に分からないので、歯医者に行って検査をしたほうが良いでしょう
保護者のかたで、子供の歯並びを悪くしたくない!という人は、小さいころから歯科医院に通って経過をおいましょう。お子さんは成長のたびに顎が大きくなるし、歯もはえかわるので、長期的な観察が必要になります。
治療をしようと思ったばあいは、矯正医ときちんと話をして、自分の状況を理解して納得した治療をしましょう
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- 第4版 歯科矯正学 葛西一貴 他 医歯薬出版
- 第2版 口腔外科の疾患と治療 栗田賢一 他 永末書店
- 小児歯科学 第3版 大畑秀穂 他 医歯薬出版