自分が歯周病になってしまったから、家族や恋人にも移すんじゃないか・・そう思って心配しているあなた。安心してください。歯周病は歯周病菌による細菌感染症ですが、移った(感染)だけでは歯周病にはなりません(発症といいます)。この記事を読めば本当の歯周病の原因と正しい予防法がわかります。
1.他の人から歯周病菌が移るだけでは歯周病になるとはかぎりません
歯周病は細菌感染症ですが、その主な細菌のほとんどは自分に住みついている常在菌によって発症します。また他人から移った歯周病菌が原因となって歯周病を発症するまでにはいくつものハードル(生体防御機構といいます)があります。
1-1.歯周病の3大要因とは?
歯周病の発症や進行には①歯周病菌、②患者さん自身の抵抗力、③環境(生活習慣)の3つの要因がかかわっています。これらの要因が重なり合うと歯周病発症の危険性が高くなります。
1-2.歯周病菌はどこからやってくるのか?
歯周病菌は10種類ほどの原因菌が考えられています。本来そこにいなかった菌が外からやってきて定着することを外因性感染といいます。キスで移る、赤ちゃんに移す、というのは外因性の感染原因です。一方、もともと住みついていた菌が突然暴れ出すのが内因性感染です。多くの歯周病菌は内因性感染と考えられていますが、一部の病原性の強い細菌は外因性の様相を示しています。ですから外からやってくる歯周病菌だけを心配しても歯周病は防げません。
歯周病細菌
1-3.他人から移された歯周病菌が発症するまでの3つのハードル
もし歯周病菌が他人の口の中に移っても発症するのはなかなか大変です。他人から移された歯周病菌が発症するまでの3つのハードルがあります。
1-3-1 唾液との闘い
唾液は食べ物を分解するという消化作用だけでなく、抗菌作用をはじめとするたくさんの働きがあります。
自律神経のコントロールで唾液の量や性状(ねばねば唾液になったり、さらさら唾液になったり)を変化させて、お口の中の環境を一定に保っています。
1-3-2 歯周病菌は酸素が嫌い
歯周病菌は酸素が嫌いという性質があります。ですから住みついたところに歯周ポケットという隠れ家がなければ酸素がたくさんあるので住みつくことはできません。逆に他の人から歯周病菌をうつされたときに深い歯周ポケットがあれば歯周病菌がポケット内に入り込んで歯周病が悪化する可能性があります。
1-3-3 外からやってきた歯周病菌が定着するに足場が必要
口の中にはおよそ300~500種類の常在細菌が生息しています。一般的に常在細菌がいちどcommunityをつくると外来細菌はなかなか定着できないといわれています。もし定着がすぐできるのなら、ビフィズス菌ヨーグルトを食べたらみんなお口の中がビフィズス菌になってしまいます。しかし歯石があったり適合の悪いかぶせ物があると、ここを足場にして細菌が粘着質の物質(プラーク)を作り出し歯の表面に定着してしまいます。プラークは細菌のかたまりで、歯周病の原因となっています。ですからこれらをためないようにしておけば歯周病菌が移ってきても定着はできないでしょう。
1-4.歯周病ってそもそもどんな病気?
歯周病とは自分の歯の周りにくっついた細菌と体の抵抗力のバランスが崩れることによって歯周組織が破壊される病気です。歯周病菌がお口の中に存在したとしても、必ずしも発症するものではなく感受性や全身状態、口腔清掃状態、ストレスなどの2次的な要因とからみあって症状が現れるのがわかっています。
2.「歯周病が移る」に関するよくある質問
2-1.歯周病はキスで移るの?
相手の唾液に接触するキスにより歯周病菌は移るといわれています。しかし大人は口内の常在菌が300~500種類と多く、免疫系も十分に機能しているため歯周病を発症する可能性は低いと言えます。きちんとプラークコントロールを行い、発症リスクを抑えるようにするとよいでしょう。
2-2.歯周病は赤ちゃんに移るの?
親子の間でも歯周病菌は移るといわれています。2-1と違うのは赤ちゃんの抵抗力が弱いということです。一番歯周病菌に感染しやすいのは、歯がはえそろう生後19か月(1歳7か月)頃です。ですからその前後で両親をはじめとして保育者全員が歯周病菌を移さないように気を付けることは有効でしょう。唾液が主な感染ルートと考えられていますから、口移しはしない、スプーンなどを共有しないなどの対策が必要になります。
2-3.歯周病はペットから移るの?
ペット、特に犬や猫には歯周病が多いといわれています。2010年のアニコム損保の調査によると76.3%に歯周病予備軍の特徴である歯周病歯垢や歯石の沈着がありました。人間の歯周病菌と同じ菌が犬の口から検出されたという報告もあります。ペットと飼い主で歯周病を移しあっている可能性が考えられます。
2-4.歯周病は遺伝で移るの?
歯周病の要因である、歯周病菌、患者の抵抗力、生活習慣のなかで患者の抵抗力は遺伝の影響を受けるといわれています。ですから歯周病という病気そのものが、遺伝することはありません。現在歯周病学の分野では、歯周病にかかりやすい遺伝子の解明がトピックになっているので、近い将来歯周病にかかりやすい遺伝子が解明されるかもしれません。
3.歯周病を移さない/歯周病に移らないみんなができる3つの予防法
予防法は正しいブラッシングやメンテナンスを受けて自分の口腔内をきれいにしながら、家族やパートナーをまきこんで一緒に歯周病治療や予防に取り組んでいくのがよいでしょう。
3-1.お口と歯をきれいに保ちましょう
歯周病は細菌感染症ですから歯みがきで歯周病菌のかたまりのプラークを機械的に除去することが一番大切です。プラーク(歯垢)には、1ミリグラムあたり約10億個とも言われるほどの細菌が含まれています。歯と歯肉の境目についたプラークを歯みがきで取り除くプラークコントロールは歯周病菌除菌効果があり、歯肉もひきしまるので、歯周病予防には効果バツグンです。
3-2.定期的に歯科医院でメンテナンスをしてもらう
歯科医院のメンテナンスを定期的に受けることで、正しく歯みがきができているかのチェックや、プラークや歯石をクリーニングしてもらえます。プラークや歯石のクリーニングは歯周病原因菌をお口の中から除去する効果があります。夫婦やカップルなどで一方が歯周病と診断された場合には、二人そろって歯科医で検診を受けるとよいでしょう。
メンテナンスの間隔は3ヶ月~半年に1回の頻度で、回あたりの歯石除去の費用は歯の本数に左右されますがおおむね3-4000円程度です。
3-3. 家族やパートナーと歯科医院に行きましょう
自分の歯周病予防がうまくできるようになったら、その輪を広げて家族やパートナーと一緒に歯科医院に行きましょう。家族やパートナーは接触頻度が多いですから進行した歯周病の方がいる場合、いい環境とは言えません。
歯科医院にもご両親がお子さんと一緒に検診を受けるだけでなく、パートナー同士で一緒にクリーニングをしてもらう例も多いです。歯科医師や歯科衛生士さんから歯ブラシ方法や歯周病のケア法を共有すれば知識も深まりますし、歯周病を効果的に予防できるでしょう。
“補足:タバコは吸わない”
タバコで直接歯周病菌は移りませんが、タバコは歯周病の発症・悪化のリスク因子です。タバコのニコチンは歯周病菌の発育を促し、病原性を高めます。また免疫作用を抑制してしまうといった害もあります。喫煙者は非喫煙者に比べ2~8倍で歯周病にかかりやすくなります。また受動喫煙でも歯周病のリスクが高まることが明らかになっています。現在歯周病学会では禁煙支援も歯周病治療の一つとしてとらえ、22日を禁煙の日として禁煙プロモーションを行っています。
特定非営利活動法人 日本歯周病学会HPより
4.まとめ
歯周病菌は移るけれど、歯周病は移らない理由がお分かりいただけたでしょうか?今のところは他の人から歯周病菌が移る/移すことを心配するより、歯ブラシで原因菌のかたまりのプラークを機械的に除去することが一番です。できれば家族やパートナーと定期的に歯科医院でメンテナンスをしてもらうことがよいでしょう。