イラストで解説!矯正で歯が動く仕組みについて

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歯は指で押しても動かないし、硬いものを食べてもびくともしませんよね。しかし、矯正をしている人の歯はなぜか動いています。今回は、どのような仕組みで歯が移動しているのかを説明していきたいと思います。

 1.矯正装置が歯に力をかける方法

これから、矯正装置がどうやって歯に力をかけるのか説明していきます。今回はマルチブラケット矯正について説明していきたいと思います。

1-1.矯正装置を実際につけた歯にかかる力

マルチブラケット矯正

上の図の奥歯は、ワイヤーがもとに戻ろうと、ひねる力が発生しています。ワイヤーの断面にもよるのですが、この力によって歯の軸方向がかわり、最終的にワイヤーがまっすぐになります。

注)この図はあくまで簡易的なのものになります。実際はワイヤー以外の道具を併用する可能性があり、実際の臨床ではもっと複雑です。

1-2.道具がもとの形にもどる力を矯正力と利用する

マルチブラケット矯正は、まず最初に、歯にブラケットという道具を強力な接着剤でつけます。

このブラケットという装置は、歯につける場所が決まっており、ブラケットにワイヤーを通してワイヤーがまっすぐなったときに、歯がキレイに並ぶように設計されています。

マルチブラケット
マルチブラケット装置

歯並びがガタガタしている人はマルチブラケットにワイヤーを通した時にワイヤーがとても曲がります。しかし治療を続けていくとワイヤーがだんだんまっすぐになっていき、同時に歯並びも整っていきます。つまり、ワイヤーがもとに戻ろうとする力を“矯正力”として利用するのです。

  ワイヤーのばあい

ワイヤーの矯正力

針金を指で少し曲げるとビヨンともとに戻りますよね。矯正のワイヤーもこの力を利用しているのです。

専門的には、ワイヤーの断面が丸かったり長方形だったり、太かったり細かったり、冷やして形状記憶させたりといった色々な性質を利用して、患者1人1人にあったワイヤーを選んで治療をしていきます。

 ゴムのばあい

ゴムの矯正力

ゴムは引き伸ばせばもとに戻るというイメージがしやすいのではないでしょうか?
矯正ではゴムを使用することがたくさんあります。ゴムをマルチブラケット装置につけることで、歯と歯の距離を縮めていきます。すきっ歯のときはゴムですき間を埋めていくことがあります。

また、上の歯のマルチブラケットと、下の歯のマルチブラケットに大きなゴムをつけることがあります。これは顎間ゴムといい、上の歯列と下の歯列の関係を調整するはたらきがあります。

 コイルのばあい

コイルの矯正力

コイルはゴムとは逆方向の力がはたらき、歯と歯の距離を広げたりするときに使います。

たとえば、八重歯の人は犬歯がはえるスペースが無いのでおかしな位置に犬歯がはえてしまいます。しかし、第二小臼歯を抜いてコイルを使い、歯と歯の距離を広げることによって犬歯のスペースを確保すると、歯を正しい位置に移動させることができます


このように、歯を動かすにはマルチブラケット装置とワイヤーだけでは細かい歯の動きが調整できないので、大小様々なゴムやコイルなどといった補助装置を併用していきます。

2.歯が動くメカニズム

歯が動くのに大きく4つのステップがあります。それでは、今から順に説明していきたいと思います

矯正 術前

2-1.歯に力をかける

矯正力をかける

歯を動かすためには、歯に弱い力をかけ続ける必要があります。

マルチブラケット装置は、ワイヤーやゴムやコイルがもとの形に戻ろうとする力を24時間かけ続けることができます。マウスピース矯正は、マウスピースを装着しているあいだのみ歯に力をかけることができます。

歯に力がかかると以下の場所ができます

  1. 力がかかり歯根膜が縮むところ(上図の左側)=圧迫側
  2. 力がかからず歯根膜が伸びるところ(上図の右側)=牽引側

2-2.歯が移動して歯の周りの組織に反応がおこる

矯正における骨改造

 歯根膜が縮んでいるところの反応(図の左側)

圧迫側は歯と骨の距離が近づくことによって、歯根膜や血管などが押しつぶされてしまいます。
血管が完全に押しつぶされ貧血状態になったところは、周囲の細胞は栄養不足で死んでしまい硝子様変性(しょうしようへんせい)がおこります。一方、血流が保たれている充血した血管からは、骨を吸収する破骨細胞とマクロファージが出てきます。

 歯根膜がのびているところの反応(図の右側)

牽引側は、歯と骨の距離が遠くなり歯根膜が引き伸ばされます。これにより、血管が広がり血流がよくなることで代謝があがります。その結果、歯根膜の周りにいた色々な細胞(骨芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞など)のはたらきも良くなり、新しい骨や歯骨膜が新しくつくられることになります。

2-3.歯の周りの骨がつくりかえられる

矯正における骨改造

 歯根膜が縮んでいるところの反応(図の左側)

血管から出てきたマクロファージは、硝子化した組織を貪食作用で吸収してくれます。破骨細胞は、骨を吸収してくれて、歯と骨の距離がもとに戻っていきます。
こういった骨の改造と同時に縮んだ歯骨膜の再生もおこり、歯の周りの組織が落ち着いていきます。

 歯根膜がのびているところの反応(図の右側)

血管が広がったことで代謝が良くなった牽引側は、様々な細胞の働きによって、引き伸ばされた歯根膜の再生や、新しい骨の形成や、歯の根の周りのセメント質が厚くなるといった反応がおこります。

2-4.新しい骨が完成する

矯正での歯の動き方

矯正での歯の動き方
gifアニメが動かない人はこちらの静止画でご確認ください

圧迫側と牽引側の両側の骨改造の結果、歯の位置が移動します。歯の移動距離は、個人差はありますが1か月で0.3~1mmとされています。

3.歯を動かすときに活躍する細胞

実は、歯が動くときに歯の形はかわりません。歯を支えている周りの骨(歯槽骨)の形が変わることによって、歯は動いていくのです。
歯と骨のあいだには歯根膜があります。この歯根膜の中には色々な細胞や血管が存在します。骨の形が変わるときは、矯正力の刺激によって歯根膜が反応することで、骨の改造に必要な細胞が出てくることからおこります。

3-1.骨を新しくつくるための代表的な細胞

骨をつくりかえるときには、主に3つの細胞が関与しています。

 骨芽細胞

骨芽細胞

骨芽(こつが)細胞とは骨のもとになる細胞で、骨の表面に1層並び、骨を新しくつくっていきます。

 破骨細胞

破骨細胞

破骨(はこつ)細胞とは、骨を吸収してくれる細胞です。数個から数十個の核を持っている大きな細胞です。顕微鏡で見ると、クラゲの足のようになっているところと骨が接しており、さまざまな成分を出して骨を吸収していきます

 マクロファージ

マクロファージは貪食細胞(どんしょくさいぼう)とも言い、体の中にある病原体や有害物といった良くないものを取り込んで消化してくれる、生体防御に重要な細胞です。

 その他の細胞

骨をつくりかえるのに直接関係はないけれど歯を動かすときに必要な細胞があり、セメント芽細胞や、線維芽細胞があげられます。セメント芽細胞はセメントのもとになる細胞、線維芽細胞は歯根膜のもとになる細胞になります。

4.まとめ

矯正治療は虫歯治療と違って大きな変化が分かりにくい治療ですが、説明したように、歯のまわりの細胞はめまぐるしい変化をしています。安全に歯を動かすためには、強い力をかけるのではなく、ワイヤーやゴムを利用した弱い力をじわじわ歯にかけ続け、骨を改造する必要があるのです。

矯正を考えている人はこの記事を読んで、どうして歯が動くのか、歯が動くのはどうして時間がかかるのかご理解いただけでば幸いです。

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