テレビでよく耳にする「歯周病」。自分には関係ないと思っていませんか?歯周病は成人の約80%、5人中4人がかかっていると言われる、生活習慣病のひとつです。自分が歯周病にかかってないか気になりますよね。歯医者に行かなくても自分でチェックシートを使って調べることが出来るんです。そしてもし歯周病が疑われたらどう行動したら良いのでしょう。歯周病は良くなるの?治療は痛いの?そんな疑問にお答えします。
目次
1. チェックシートで確認しよう
歯周病は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と言われ、いつの間にか進行していきますが、注意深くお口の中を見てみるといくつものサインがあります。それらを見逃さず自分が歯周病かどうか判断しましょう。
- 虫歯ではないのに冷たい物がしみる
- 最近歯並びが悪くなってきた。歯の間に隙間ができて物が挟まるようになった
- 口臭が気になるようになってきた
- 定期検診などのお口の中のチェックを1年以上受けていない
- 不規則な生活をしていて、歯磨きの時間も少ない
- 歯肉が赤やくすんだ紫色になり、腫れている
- 歯肉が下がってきて、歯が長くなったように見える
- 歯を磨くと歯ブラシに血がついている。またはうがいの水に血が混ざることがある
- 歯がグラグラ動いている
- 歯肉を触るとブヨブヨしていて膿が出てくる
- 朝、起きたとき口の中がネバネバしている
- 歯肉がむずがゆい
- 歯の表面がザラザラしている
《判定》
0 ・・・今のところ歯周病の心配は無いでしょう。丁寧な歯磨きを心がけて歯科医院での定期検診を1年に1回以上続けることが大切です。
1~4・・歯周病の可能性があります。かかりつけの歯科医院で診察をしてもらいましょう。
今までの歯みがきの仕方が正しいかのチェックも忘れずに。
5以上・・中等度からそれ以上に歯周病が進行しているおそれがあります。できるだけ早く歯科医院での治療を開始する必要があります。
2. 歯周病ってどんな病気?
歯周病とはどんな病気なのでしょう。言葉はよく耳にしてるのにどんな病気かわからない方も多いと思いますが、歯周病とは歯垢(プラーク)の中の細菌により歯肉に炎症が起こり、進行すると歯を支えている顎の骨を溶かして最終的に歯が抜けてしまう病気です。
歯周病は「歯肉炎」と「歯周炎」の2つから成り立っています。歯肉炎→軽度歯周炎→中度歯周炎→重度歯周炎と進んでいきます。詳しくは初期の歯周病でやっておいてほしい5つのケアを参考にしてください。
3. 『治る』歯周病、『治らない』歯周病
歯科医院の先生や歯科衛生士は歯周病は治りません。と言うけど、インターネットで調べると歯周病は治ります。と、書いてある。どっちが正しいのだろうなんて思ったことはありませんか?
3-1 治る歯周病は初期の歯肉炎の段階です
歯を支えている骨や歯根膜などの歯周組織の破壊がない初期の場合に限っては治すことが出来ます。歯肉が赤く炎症を起こしている状態です。正しい歯磨きをしっかり続けることで赤みが取れて健康な歯肉に戻ることができます。
3-2 歯周炎の状態に進行していたら治りません
歯肉炎を放置して軽度の歯周炎に進行すると、歯周組織の破壊が始まります。骨は溶けて下がってしまうと元の状態に回復することはありません。さらに歯周炎が進行していくと歯周ポケットが深くなると共に骨も無くなってくるので、歯を支えることが出来なくなります。
適切な治療と定期的な観察、正しい歯磨きを続けることで進行を抑えることは可能ですが、元の健康な状態に戻ることはないのです。
4. 歯周病になりやすいのはこんな人
歯周病になって様々な症状に苦しみ、歯を失うことになる人。自分の歯で大好物も硬い物もバリバリ食べ、歯周病なんて全く無縁の生活を送る人。いったいどんな違いがあるのでしょう。選べるなら間違いなく歯周病の心配のない人生ですね。
4-1 体質的なもの
本来自分が持っているものや、自分ではどうすることもできない場合があります。出来るだけ改善できるよう心がけましょう。
糖尿病
歯周病は糖尿病と深い関連する病気です。高血糖状態が続くと体の防御反応が低下するので、感染症にかかりやすくなります。歯周病は細菌感染を原因とするので、健康な人より歯周病になることが多いのです。歯肉からの出血や膿が糖尿病を悪化させる原因にもなります。
ホルモンの乱れから起こる
女性の場合は思春期、妊娠、出産、更年期などの時期にホルモンのバランスが崩れ、免疫力が低下したり、唾液の分泌が減ったりすることで自浄作用が低下します。特に更年期は閉経に伴い女性モルモンの分泌が減ることで、ドライマウスを引き起こし歯周病が進行しやすくなります。
噛みあわせ、歯並びが悪い
噛みあわせや歯並びが悪いと、歯磨きが上手く出来ないことが多いため、プラークや歯石が多く付いているケースが多いです。噛みあわせが悪い場合噛んでいる歯に負担がかかり、歯周病が進行します。歯並びが悪い場合は重なっている歯の周りの骨が薄い場合があります。歯周病の進行が早い可能性があります。
年齢
高齢になると免疫力が低下します。新陳代謝も衰え、唾液の分泌が少なくなり細菌が自然に流されなくなり、歯周病が進行します。また、歯磨きをすることが難しくなったりします。家族や介護者の協力が必要です。
遺伝性のもの
歯周病そのものが遺伝することは一般的にはありませんが、歯周病になりやすい要因(糖尿病、白血病など)が遺伝する可能性があります。
4-2 生活習慣
原因の多くは生活習慣によるものです。自分の心がけ次第で改善出来る場合がたくさんあります。歯周病が改善するか、悪化するかそれはあなた次第です。
歯磨きをしない
歯を磨くことは歯周病予防だけでなく虫歯の予防にも絶対に欠かせません。プラークをしっかり落とすことで細菌の形成、増殖を防ぎます。
やみくもに磨くだけではいけません。正しい歯ブラシを選び、自分のお口の中にあった磨き方で適切な歯磨きをすることが何よりも大切です。歯科医院で相談することをお勧めします。
食生活
歯周病を予防するには唾液が大きなカギになります。口内環境を整えるには口の中が潤っていることが不可欠で、しっかり噛む食材を選び唾液の分泌を促します。噛みごたえのある食品や繊維の多い食品を積極的に取りましょう。乳酸菌食品を多くとると悪玉菌を殺菌し同時に口の中が酸性になり、酸性に弱い歯周病菌を抑えます。
いずれにしてもバランスの良い食生活をし、不規則な食事の時間も見直しましょう。
喫煙
たばこを吸う人は吸わない人に比べ「2~7倍」歯周病になるリスクが高いと言われています。たばこに含まれる「一酸化炭素」は血液の流を悪くし酸素の供給を妨げ、「ニコチン」は血管を縮ませます。身体はもとより歯肉も酸欠、栄養不足になってしまいます。また、ニコチンは免疫機能を狂わせるので傷の治りが悪くなり、せっかく治療しても治ることが出来ません。
たばこをやめると歯周病のかかりやすさは格段に減ります。詳しくは歯周病って移る病気!?原因と予防法を徹底解説を参考にしてください。
口呼吸、歯ぎしり、くいしばり
口呼吸をしているとお口の中は乾燥し歯周病菌の粘度が増し、歯にへばりつきます。唾液も減り菌の流れも悪くなります。歯ぎしりや食いしばりは歯に強く大きな力が加わることで、歯を支えている骨が影響をうけ、骨の吸収が進みます。口呼吸の改善は簡単ではありませんが、口輪筋を鍛えることで望めます。
歯ぎしりや食いしばりはマウスピースを装着することで改善出来ます
5. 歯周病の4段階を詳しく知る
初期の歯肉炎が進行すると歯周炎に移行します。歯周炎には軽度、中等度、重度の3段階があり、その4つを総称して歯周病ということがおわかりいただけましたか?それぞれを確認します。
5-1 歯肉炎
歯肉炎は炎症が歯肉にとどまっている状態で、骨などの歯周組織の破壊はありません。そのまま放置しておくと歯周炎に移行していきます。歯周病の初期段階ですので適切な処置をすれば改善が可能です。歯周病を予防することが出来ます。
<歯肉炎の症状>
歯の根元の歯肉が歯に沿って赤く炎症を起こしています。プラークが残っていると歯肉は腫れて丸みを帯びてきます。歯と歯の間の三角の部分の歯肉が盛り上がっていませんか?
<歯肉炎の治療法>
歯肉炎は正しい歯磨きで改善出来ます。プラーク(歯垢)が取り切れていないことが原因です。歯ブラシがきちんと歯と歯肉の間に当たってないことでプラークが残ってしまうのです。
自分では良く磨いているつもりでも、歯並びや歯ブラシの動かし方で毛先があたらないのかも知れません。正しい磨き方を歯科衛生士に相談しましょう。
<歯肉炎のセルフケア>
プラークが残らないように丁寧に歯磨きをすることが何よりも大切です。お勧めの磨き方は『バス法』です。
やわらかい歯ブラシを選び、歯ブラシの毛先を歯肉に向けた状態で歯と歯肉の間に当てます。歯ブラシの力の入れすぎは歯肉が下がってしまったり、知覚過敏の原因になったりするので、ペングリップ(鉛筆を持つように)で持って、45°の角度で毛先を小刻みに動かします。歯を磨くというより歯肉のマッサージをするイメージです。
5-2 軽度歯周炎
歯肉炎が進行すると歯肉の炎症がひどくなります。歯と歯肉の間のポケットが深くなり始め、歯周病菌が歯周組織に入り込み歯を支える骨(歯周骨)が破壊されていきます。プラークが硬くなった歯石の付着が見られ、出血することもあります。
<軽度歯周炎の症状>
歯肉の赤みや腫れなどの炎症が進行し、歯を磨いた時、歯肉からの出血することもあります。歯肉の溝(歯周ポケット)にプラークや汚れがたまり、歯肉がムズムズしたり、冷たい水がしみることがありますが、あまり痛みを伴わないので気がつかないことも多いです。歯肉の境目に歯石が付いていませんか?
<軽度歯周炎の治療法>
プラークが唾液中のカルシウムやリンなどのミネラルと結合して硬くなったものを歯石と言います。磨き残したプラークはおよそ48時間で歯石になり始めます。歯と歯の間、歯と歯肉の間に少しずつ付着し重なるように増えていきます。歯石そのものは酸や毒素を出すことはしませんがプラークが付着、増殖することで歯周病の原因となります。見えるところの歯石は自分でも取れそうですがとても固くこびりついているので、完全に除去することは難しいでしょう。
とがった器具を間違った使い方で歯に当ててしまうと表面のエナメル質を傷つけてしまいます。歯科医院で除去してもらい正しいブラッシングを続けます。
5-3 中程度歯周炎
歯肉の炎症がさらに進み、歯周ポケットが深くなります。ポケットの深いところまで歯石が付いていることが多く、骨が歯の根の半分くらい溶けてしまった状態です。
<中程度歯周炎の症状>
歯を支えている骨が無くなり歯が動くようになります。出血や膿が出たりするので口臭が気になったり、骨の低下とともに歯肉も下がってくるので歯が伸びたように見えます。さまざまな症状があります。
<中程度歯周炎の治療法>
歯石がポケットの深いところに付着しているので麻酔をしてSRP(スケーリング・ルートプレーニング)を行います。SRPとは根の周りの歯石を除去することで細菌のいない状態にする治療法です。
5-4 重度歯周炎
重度の歯周病になると骨が歯の3分の2以上が溶けてしまい、ポケットはさらに深く、歯がグラグラと今にも抜けそうなほど動いてきます。痛みもあり物を噛むことが出来ません。
<重度歯周炎の症状>
歯の周りの骨が無いため動きが大きく痛みが強くなります。出血や膿が出ていることも多くなり口臭もひどくなります。細菌が増えるので起床時に口の中がネバネバすることもあったり、歯が自然に抜けてしまうこともあります。
<重度歯周炎の治療法>
昔は重度まで進行するとやむを得ず抜歯をすすめることがほとんどでしたが、可能な限り歯を残すことを目的とした外科治療が行われることもあります。
フラップ手術
歯肉を切り開き、中にたまっている歯石や膿を取り除く手術で、根の先を目視しながら確実に付着物を除去できます。デメリットは術後に痛みがあったり、歯肉が下がってしまうので見た目が気になるかもしれません。
歯肉再生治療
歯が長くなったように見える歯肉の見た目を回復させる治療です。症状と原因を見定めたうえで行います。
手術には何通りか種類がありますが、いずれも自分の口の中の歯肉を切除し移植させます。
骨移植
歯周病で顎の骨が溶かされてしまった部分に、近くの顎の骨を採取して自分の骨や人口の骨を移植します。
デメリットもありすべてに適応するとは限りません。
エムドゲイン
歯周病で失われた骨や歯根膜などに「エムドゲイン・ゲル」というたんぱく質の1種を塗ることで組織を回復させる治療法です。
GTR(歯周組織誘導法)
骨が無くなった部分に「メンブレン」という人工膜を挿入し、歯周組織を回復させます。
6. まとめ
進行すると大切な歯を失う原因のほとんどが歯周病によるものです。早期に発見し適切な治療、メンテナンスを続けることで健康な毎日を送ることが出来るのです。チェックシートで一つでも当てはまる項目があったら歯科医院で専門家の診断を受けましょう。