先日、歯科感染管理者のセミナーに参加してきました。
今回は歯科医院の感染対策マニュアルを作成するための講義でしたが、今の時期に注意喚起されるインフルエンザと合わせて、新型コロナウイルス感染症の話がありました。
昨年、早い時期からインフルエンザが出始めましたが、ピークを迎えるこの時期に例年より罹患数が落ち着いているのは、新型コロナウイルス予防のためにマスク着用や手洗いに気を付けていることが要因だと推測されるとニュースで報道されていました。
新型コロナウイルスに関してかなり過敏になっているとは思いますが、感染対策はインフルエンザと同様です。
今回は、たくさんの人が出はいりする歯科医院において行うべき感染対策についてお話ししていきます。
目次
1.新型コロナウイルス・インフルエンザの感染経路は2つ
みなさん新型コロナウイルスに関してかなり過敏になっていますが、冒頭でもお話しした通り、感染対策はインフルエンザと同様です。
感染経路が分かっていれば、予防するのに何が大切かおのずと気を付けるべきことが理解できますよね。
まずは感染経路についてお話ししていきます。医療従事者は復習を兼ねて、患者さんは自分自身を守るためにしっかり正しい知識を身につけるためにご覧ください。
1-1 接触感染とは
汚染された手指や物により感染します。感染者が咳やくしゃみをしたときに、手で口や鼻を押さえ、その手で公共機関の物に触れ、それを他の人が触れてしまう。その手指で口や鼻などを触ることで粘膜から感染していきます。電車やバスのつり革、ドアノブ、エスカレーターの手すり等、不特定多数の人が触れるものが感染媒体となります。
(画像:首相官邸ホームページより)
1-2 飛沫感染とは
感染者の咳やくしゃみ、つばなどの飛沫と一緒に放出されたウイルスを、別の人が口や鼻から吸い込むことによって感染します。学校や劇場、満員電車などの人がたくさん集まる場所が主な感染場所です。歯科医院にも毎日たくさんの患者さんが来院しますし、直接口腔内を診察するわけですからリスクは高くなります。
(画像:首相官邸ホームページより)
2.院内における感染経路を断つ2つの防止策
感染経路を踏まえたうえで、次に院内でそれを断つ防止策についてお話ししていきます。
まず第一に医療従事者自身が媒体にならないこと!!
2つ目は来院する患者さんから患者さんへの感染を防止すること。
もともと歯科医院では※標準予防策(スタンダードプリコーション)を行っていますが、それをもう一度見直していきましょう。
※標準予防策(スタンダードプリコーション)とは・・・
標準予防策とは、「あらゆる人の血液、すべての体液、汗以外の分泌物、排泄物、損傷のある皮膚、および粘膜には感染性があると考えて取り扱う」という考え方を基盤に、すべての人に実施する感染予防策です。
2-1 医療従事者自身が媒体にならない
たくさんの患者さんが来院する歯科医院において、自分が保菌者にならないようにしましょう。
インフルエンザにおいてはワクチン接種はぜひ行いましょう。昨年は異例にインフルエンザが早めに流行りだしましたが、流行する時期になってからではなく10月、遅くても11月頃までにはワクチン接種をしておくことをおススメします。
新型コロナウイルスにおいてはまずは自分が罹患しないように、外出する際には接触感染・飛沫感染を念頭において注意しましょう。
2-1-1 正しい手洗いを行う
外出先から帰宅した後、食事の前は手を洗うのは当り前だと侮ってはいけません。みなさんはちゃんとした手洗いができていますか?せっかく手洗いをしてもきちんと洗えてなければ意味がありません。
手洗いで、最も洗い残しミスが多い場所は、指先、指の股、手のひらのスジ、親指やその付け根です。
筆者はまだ記憶に新しい学校実習で、何度も何度も繰り返し学ばされた手指消毒ですが、ベテランスタッフさんはおざなりになってはいませんか?もう一度自分の手洗いを見直しましょう。患者さんもぜひ毎日の手洗いの参考にしてください。
(画像:サラヤ株式会社HPより)
では洗い残しミスの多い部分を踏まえて、正しい手洗い方法をご案内していきます。
(画像:サラヤ株式会社HPより)
洗い終わったあとは、手指が濡れていると手荒れや細菌が繁殖しやすくなるので、しっかりペーパータオル等で水分を拭き取って乾かします。
11番目の消毒剤の使用は、セットで行えばなお良いですが、歯科医院では目に見えて汚染されていない場合の手指消毒として行っています。患者さん毎にグローブを変えるのは当り前ですが、その際、毎回上記のような手洗いをしていては時間もかかりますし、手荒れも招きます。そこで歯科感染管理の対応策では、手術等の外科処置などの前には手洗いとアルコール製剤による手指消毒をセットで行い、一般の診療の場合は、明らかに汚れが付着している場合には石鹸による手洗い、汚れの付着が見られない場合はアルコール製剤による手指消毒を基本としています。
手指消毒の手順も合わせてご案内しておきます。
(画像:メディコムジャパンHPより)
以前に院内の器材管理のブログでも紹介しましたが、当院勤務のスーパー女医の手洗い動画、再度載せますのでご覧ください。
意識せずとも体にしみついて自然と流れるように行える所作は、院内でもみんなの見本とされています。
2-1-2 マスクを正しく装着する
マスクの購入にお困りの方、多いのではないでしょうか?
医療機関もおんなじです(T_T)
普段注文している業者でも大量注文が入り、欠品中のお知らせが来たりして、医療現場もかなりの混乱を起こしつつあります。幸い当医院は在庫管理のスペシャリストがいるため確保ができている状態です。
余談ですが、院内でそのスタッフは「在庫の達人(太鼓の達人パクリ)」と呼ばれております。
当医院はスーパーのテナント内で診療しているのですが、スーパーのスタッフから、マスクがやっと入ってきた、という会話を最近耳にしました。やっと入荷したマスクも大量ではなく、ワゴンに積まれていたのは少量でした。
せっかくマスクを手に入れたとしても、正しく装着できていなければ意味がありません。
正しくマスクを装着して飛沫感染を防ぎましょう。マスクは他社からの飛沫を防止することと、自分がもしウイルスをもっていた場合に、周りの人に感染させないためにも必要です。
(画像:首相官邸ホームページより)
画像がかわいいので思わず載せてしまいましたが、もう少し補足していきます。
(画像:メディコムジャパンHPより)
2-1-3 誤ったマスクの装着
マスクをつけたときに以下のことに注意してください。
①ノーズピースが鼻の形にあわせてない
これだと鼻とマスクに隙間ができてしまいます。しっかり鼻の形に合わせて使用しましょう。
②口だけ覆って鼻を出している
マスクをつけ慣れないと呼吸がしづらく、よくやりがちです。自分の咳やくしゃみは周りに迷惑をかけずに済みますが、自分自身の保護ができません。しっかり鼻まで覆いましょう。
③つけたマスクを顎にかける
これも会話の際にやりがちですが、顎部分に飛散物が付着している可能性もあるので、顎にかけたマスクを再度装着すると、それが自分の口元にあたることになりますので注意しましょう。
④ゴムひもがゆるい
顔とマスクの接着面に隙間が多くできてしまうので飛沫を予防できません。
2-2 患者から患者への感染経路を断つ
歯科医院では標準予防策(スタンダードプリコーション)に従い、使用する器材は、専用の薬剤や機器等で洗浄・消毒・滅菌を器材に応じて行います。
滅菌等行うことのできない診療ユニットなどの設置器材は、専用の薬剤で消毒を行います。
診療中に医療従事者および患者さんが接触したであろうすべての箇所を清拭消毒していきます。
接触感染で注意しなければならない個所として、意外に忘れがちなのがレントゲンのスイッチボタンです。
レントゲン撮影において、設定はスタッフが行えますが、撮影スイッチを押すのは歯科医師またはレントゲン技師でなければなりません。よって、診療途中でスイッチを押してもらうことも少なくないため、必ずしも清潔な状態でスイッチを触っているわけではないことをスタッフはお忘れなく。
2-2-1 使用器材の洗浄・消毒・滅菌
歯科医院は観血処置(出血を伴う治療)が多く行われます。先にお話しした歯科医院における標準予防策は血液以外にも唾液も感染源として扱いますので、口腔内に使用した器材は出血せずとも感染物としての取り扱いをしていきます。当院で行っている、使用器材が再利用されるまでの工程をお話しします。
まず、使用後の器材は汚れを乾燥させないために洗浄工程に行くまでの間は薬液浸漬します。
その後ウォッシャーディスインフェクターにて、洗浄➡消毒➡乾燥工程まで行います。歯科器材には鋭利なものがたくさんあります。ウォッシャーディスインフェクターは患者さんに安全な器材を提供する以外にも、スタッフが洗浄工程でケガをしない、ケガによる感染をしない役割もあります。
ウォッシャーディスインフェクターが完了したら、滅菌バッグに個包装していきます。
個包装した器材をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)にて滅菌していきます。歯科医院の多くはクラスNやクラスSというタイプのオートクレーブを使用していますが、当院使用のオートクレーブは、筒状の中空内もしっかり滅菌できるクラスBを導入しています。虫歯治療で使用するハンドピースも、このクラスBオートクレーブでしっかり滅菌された状態で次の患者さんへ使用しています。
2-2-3 問診をしっかり行う
歯科医院を受診する患者さんには、初診時にはまず問診票を記載してもらいます。病歴等の記載欄もありますが、すべての患者さんが正直に申告してくれているとは限りません。ある患者アンケートで、病気について歯科医院に申告をしない理由として、「言いたくない」の他に、「聞かれなかったから」という回答があったと聞いています。また感染症に罹患していてもそのこと自体を患者さん本人が知らない場合もあるわけです。
それを踏まえて標準予防策(スタンダードプリコーション)は医療従事者、患者さん双方を守るために大切な感染対策なのです。
3.咳エチケットについて
マスクをしていれば、咳やくしゃみをしたときに、周りの人に迷惑をかけることはありませんが、マスクを着用していない場合には以下のことに注意してください。
①ティッシュやハンカチで口・花を覆う
②とっさの場合は、服の袖や上着の内側で覆う
③人から離れる
(画像:首相官邸ホームページより)
咳やくしゃみを手で押さえたり、何もせずに咳やくしゃみをするのは気を付けましょう。
手で押さえてしまった場合は、その手で、周りの人や物に触る前に手洗いをしましょう。
(画像:首相官邸ホームページより)
4.まとめ
あなたが勤務している歯科医院の感染予防対策は大丈夫ですか?
もう一度標準予防策(スタンダードプリコーション)を見直して、患者さんを不安にさせることがないように院内の環境を整えましょう。
患者さんは歯科医院を受診するときには、しっかり感染対策を行っている歯科医院を選んでください。また、医療従事者が行っている予防策は日常生活でも役立ちますので、ぜひ取り入れてください。
早くこの新型コロナウイルス騒ぎが落ち着くことを切に願っています。