スポーツは心身の健康にとても良いのですが、ケガはつきもの…
一体どのスポーツがケガをしやすいのか気になりませんか?そして実際にケガがおこったらどうしたらよいのか分かりませよね
今回は、歯科的な観点から、どの種目がケガがおきやすいのか、もし起きたらどう治すのか、治療費は補助してもらえるのかを、説明していきます
目次
1.歯のケガが多いスポーツTOP5
まず、歯科的なケガがおこりやすいスポーツを紹介します
まさかの、全部、球技!でした…
1位 野球
2位 バスケットボール
3位 ソフトボール
4位 サッカー
5位 バレーボール
1位の野球が圧倒的に歯のケガがおこりやすいという結果になりました。硬球の硬さと野球の性質を考えれば、納得の1位ですね…
2位のバスケットボールは、1位の野球の1/3以下の発生件数で、2~5位の発生件数は団子状態です
なんにしても、歯科的なケガの観点からは、球技が危ないという事は明らかですね
埼玉県歯科医師会とスポーツ歯科医学界の共催、スポーツ歯学講習会の資料
2.歯のケガが起こるシチュエーショントップ5
では、どういう状況で歯にケガをするのでしょうか…
1位 ボール等があたる
2位 人とぶつかる
3位 バットなどがあたる
4位 転んだり落ちたりする
5位 施設・設備とあた
1~5位、すべてがものの見事に野球に当てはまりますね。野球が歯科的なケガがおこりやすいスポーツ第1位であることが納得できます
1位のボールにあたるというのが圧倒的で、2位を大きく引き離しています。
球技をするときは、ボールを顔面にぶつけないように注意することが、歯のケガのリスクを下げることに繋がります
3.スポーツでおこりやすい3つ症例と治療法
では、実際にケガをしたとき、どういったことがおこりやすいのか説明していきます
3-1.歯がグラグラする亜脱臼
歯がグラグラ(動揺)しているけど元の位置にとどまっている状態、亜脱臼が1番おこりやすいです
軽度なものなら1週間以内でグラグラはおさまってきます。
しかし、痛くてかめないというときは、隣の歯とグラグラしている歯をワイヤーや接着剤でくっつけて、2、3週間固定をします
固定直後は含嗽剤(液体歯磨き)でお口をゆすぎ、腫れがおさまってきたら柔らかい歯ブラシで歯の周りをやさしく汚れをとります
3-2.歯が折れてしまう歯牙破折
歯が折れてしまう歯牙破折が次いでおこりやすくなります
歯牙破折はどこで折れたかで治療法が変わります
神経に達していないとき
コンポジットレジンという白い樹脂で治すことができます
CRという白い樹脂で治した症例↑
神経に達しているとき
神経に達するほど深いところで折れていたら、神経の治療をしてかぶせ物をします
↑歯の神経の管が見えてしまっている。こういうときは神経を取り被せ物をする
歯の根っこの部分で折れたとき
歯の根っこ、歯の根元で折れてしまっているときは、おそらく抜歯をすることになるでしょう。抜いた後はブリッジや部分義歯、インプラントなどで無くなった歯を補うことになります
↑根っこの深いところで折れていると抜歯を余儀なくされることが多い
状況によって変わるので、担当医によく話を聞いて歯を治していきましょう
関連記事「歯が折れた人が最初にするべき3つの事」
3-3.歯が抜けてしまう脱臼
歯が抜けてしまう脱臼が3つめに起こりやすい症状になります
骨が柔らかい小さいお子さんに脱臼は起こりやすいです
↑不完全脱臼
↑完全に脱臼している
抜けた歯をもとにもどして固定をしていきます。固定期間は7日~10日と短期間が良いといわれています。
定期的にエックス線写真をとって、歯根吸収をしていないか、歯と骨がくっついていないか(アンキローシス)を確認していきます。予後が悪いときは数年後に抜歯をすることもあります
4.マウスガードでスポーツ外傷を予防する
近年、学校では歯を失う原因として、虫歯や歯周病といった病気ばかりでなく、外傷による歯・口のけががクローズアップされています
日本スポーツ振興センターが行った障害見舞金の給付件数の中では、歯・口のけがによるものが最も多く、全体の約3割を占めています
上の図を見ると、ピンクの棒(歯の障害)の割合が多いことが明らかです
こういった事実をふまえると、可能ならばスポーツ外傷における歯のケガを予防したほうが良いことが分かりますね
4-1.マウスガードとは衝撃を吸収する柔らかい樹脂
マウスガードは、上顎の歯列をやわらかい樹脂で覆い外力を緩和する装置です
スポーツにおける歯のケガは、前歯に集中しており、特に上の前歯がほとんどをしめております。だから、歯を守るためには歯の周りに衝撃を吸収するマウスガードを使用することが有効となります
また、歯を守るだけでなく脳震盪(のうしんとう)や頸椎損傷の予防効果もあります
↑赤線を見るとマウスガードのおかげで頭蓋内圧が50%軽減される
そして歯があたって口を切ることがあるのですが、それも予防ができるので感染対策にもなります
↑歯の外傷のときは、歯で粘膜を傷つけることが多い
現在のところ、ボクシング・アメリカンフットボール・ラグビー(高校)・ラクロス(女子)等のスポーツ競技には装着義務があります。
4-1.マウスガードは3タイプある
マウスガードには
- ストックタイプ
- マウスフォールドタイプ
- カスタムタイプ
の三種類があります
ストックタイプ
日本では普及していません
マウスフォームドタイプ
スポーツ店で販売しており、お湯につけて軟化したマウスガードを口の中で直接歯に圧接して作製するタイプ(熱可塑性型)と、外側のシェルに軟性樹脂を流し込み口腔内で圧接するタイプ(シェルライナー型)の2種があります
カスタムタイプ
カスタムタイプには、歯科医師による印象(型を採ること)から作製した石膏模型上で、加熱したマウスガードシートを吸引圧接するタイプや加圧成型するタイプがあります
最も適合がよく、違和感が少ないとされています
5.実際にスポーツで歯にトラブルが起こったらすること
どんなに注意をしていてもケガをするときはします
では、実際に起こった時はどう対処すれば良いのか…順を追って説明していきます
5-1.意識・呼吸・脈の確認
ケガをしたらまず確認するのは、全身の状態です
まず3つのチェックをしましょう
1)意識の有無
「大丈夫!?」「聞こえていますか!」と声掛けをして意識があるか確認
2)呼吸の確認
(鼻の下に顔を近づけて)
3)脈の確認
(首か手首の脈の確認)
もし、意識がなくて心肺停止をしていたら、一大事です!速やかに一次救命処置(BLS)をしましょう
BLSの流れ
- 人を呼ぶ「誰かいませんか!」「助けてください!」
- 救急車を呼ぶ
- AEDの確保
- 心臓マッサージ
BLSは多人数でやりましょう
集まった人たちで役割分担する
- 救急車を呼ぶ係の人、
- AEDを持ってくる人、
- 心臓マッサージをやる人、
- 全体の状況を把握する人(何分に倒れた、何分心臓マッサージをやった、何分にAEDを行なったか、メモする係)
など、役割分担をしましょう
心臓マッサージは体力が必要なので、人数に余裕があったら交代でおこなうようにしましょう
心臓マッサージはAEDを使用するとき以外は一切の中断をしないで行うのが重要です
5-2.出血の量・ダメージをうけた歯の本数の確認
心肺機能・意識が大丈夫であったら、ケガをしたところを確認しましょう
- 血がとまらない
- 多数歯が受傷している
この2つを満たしているときは、救急要請をして口腔外科に診てもらいましょう
5-3.歯の破片や歯を拾う
歯の破片や歯が落ちていたら、拾って病院に持っていきましょう
もしかしたら破片を再利用できるかもしれません
↑こういった破片を拾う
注!歯がまるまる1本抜け落ちたら保存液にいれる
歯が抜け落ちたばあいは、歯の根っこの部分を絶対に触らないでください。歯の根っこのまわりにある「歯根膜」という細胞が生きていると、抜けた歯がもとにもどる(再植できる)確率があがります。
歯が砂や泥で汚れていたら、根っこをこすらないようにして洗い流してください。洗い流すときは、保存液や生理食塩水があればその中でキレイにしましょう。水道水しかないときは、30秒以内で汚れを洗い流してください
そして歯を乾燥させないようにして歯医者にもっていきましょう
- 歯の保存液に入れる(理想)
- 牛乳に入れる(現実的)
- 生理食塩水に入れる
- 口の中に歯を含んで唾液に浸す(飲み込んでしまう危険があるので小児にはおこなわない)
↑歯の保存液
このとき、水道水に浸して歯医者に持ってくるのはやめてください!水道水に長時間浸すと歯根膜が死んでしまいます
もし、子供が落ち着いていて、抜けた歯が清潔な状態だったら、その場で差し込んでも良いです。間違って歯を飲み込まないように注意して歯医者に来てください
5-5.なるべく早く歯医者に行く
歯医者にはなるべく30分以内に行ってください。はやく行ったほうが歯がもとにもどる可能性があがります
歯牙保存液に入れているときはそこまで慌てる必要はありませんが、それでも1時間以内には歯医者に行っていたほうが良いでしょう
6.スポーツでケガをしたら災害共済給付金をもらおう
子供が学校の管理下で「けが」などをしたら保護者に対して給付金(災害共済給付)を支払う制度があります。これを日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度と言います
6-1.給付対象のケガ
登校中、授業中、課外指導中(遠足)、休憩時間中、始業前、放課後、部活動中、下校途中
こういったときに起こったケガすべてが対象になります
6-2.給付金の額
歯の治療については保険診療と自由診療の場合がありますが、センターの給付は保険診療の範囲を給付対象としています。
センターから給付される額は、高額療養費に該当する場合を除き、保険診療の自己負担分の補填分としての3割に1割を加えた4割が支給されます
6-3.給付金を貰う手順
では、お金もらうまでを、病院に行くところから順を追って説明します
病院で治療費を払う
まず、病院に行って治療を受けます
たとえば治療内容が300点だったら、窓口で900円(3割負担のばあい)支払ってもらいます
歯科医師に「医療等の状況」を書いてもらい学校に提出する
歯科医師に「医療等の状況」という書類を書いてもらいましょう。この書類は学校から手渡されることが多いです
もしもらえなかったら、ここのページからダウンロードして印刷をしましょう
※この書類は受傷当日にすぐにお渡しできないこともあります。ご了承ください
書類をもらったら学校(園)の先生に渡してください
お金を受け取る
およそ3カ月くらいでお金をうけとることができます
受け取る手段は、振り込みだったり直接学校にもらいにいったりと、学校(園)によって様々です
治療内容が300点だったら、1200円もらえることになります
1200円(給付金)-900円(窓口負担金)=300円ということになり、300円が余剰金としてもらえることになります
6-4.3本以上の歯がケガをしたときは障害見舞金がもらえる
3本以上の歯に(インレーやコンポジットレジン修復以外の)治療をしたら障害見舞金がもらえ、3本のばあいは820,000円もらえることになります。受傷した歯が増えるにつれて見舞金が増えます
例外的に、前歯に2本を抜歯することになりブリッジで治したときは、14級に相当することになります
詳しいことは各センター支所に電話しましょう
センター支所連絡先
◆仙台支所 022-716-2106◆東京支所 03-5410-9165
◆名古屋支所 052-533-7821
◆大阪支所 06-6456-3601
◆広島支所 082-511-2822
◆福岡支所 092-738-8720
7.まとめ
スポーツにはケガがつきもの。。ケガが怖いからといってスポーツをすべてやめてしまうのはナンセンスです
だから、ケガをしないように気を付けたり、物理的にマウスガードなどで予防をしたり、
そして、残念ながらケガをしてしまったら適切な処置をうけて、金銭的な援助があるのなら受けて、スポーツを楽しみましょう