日常生活の中でぼんやり考えごとをしていたり黙っているとき、あなたは舌をどの位置に置いているか自覚しているでしょうか?
無意識でいると舌先が上下どちらかの前歯の裏面に常に触れていたり、お口をポカンと開けてしまうクセのある方は舌が下アゴのほうにペタッと下がっていたりしませんか?
一度気になってしまうと、どこに置いても違和感を感じて正解がわからなくなってしまう舌の位置。
「座りのいい場所があればそこが正解」というわけではなく、実はしっかりと正しい位置が決まっています。
普段、食事のときに食べ物の味を感じ取ったり、ものを飲みこむときに使うくらいで「舌」の役目についてあまり意識されることは少ないかと思いますが、なんと間違った舌の置き方をしていると出っ歯になりやすかったり、口臭や虫歯のリスクがあがったりする危険性もあるのです。
ほんの弱い力しか持っていなさそうな「舌」ですが、実はお口の中の健康に大きな影響を与えかねない存在なのです。
この記事では、本来の正しい舌の位置、舌を間違った位置に置いてしまうことのデメリット、そして正しい舌の位置に治すためのトレーニング法をご紹介しています。
今日から治せる舌の位置、ぜひ周りの方にも教えてあげてくださいね。
目次
1.舌先は「スポット」に、舌全体は上アゴにつけるのが正解!
一番気にするポイントは「舌先がどこに触れているか」です。
まずは、正しい舌の位置をご紹介しておきます。
舌先は上の前歯の裏側から少し手前に引いたところにあるポコッとしたふくらみのところに置くのが正解です。このふくらみの部分を「スポット」と呼びます。
手鏡を見ながら確認してみましょう。
まず舌先で前歯の裏側を触ってみてください。そして、歯と歯ぐきの境目にスライドし、あとほんのちょっと手前(ノドのほう)にずらすとゆるやかな丸みのある部分に触れられると思います。ドームの天井のような大きなくぼみ部分まで行くと、手前に引きすぎです。
舌先はギリギリ上の前歯裏に触れないくらいになっているかと思います。
次に舌全体を上アゴ(ドーム状のくぼみ部分)に吸盤が引っつくようにペタッと沿わせます。
この位置が慣れないうちは舌全体に力が入ってしまうかと思いますが、本来は舌の中央部は力を抜いて、ただ上アゴに沿わせるだけで大丈夫です。
必要以上に力んでしまうと、喉ぼとけが上がって息苦しくなってしまいます。
さて、正しい位置に舌を動かせたでしょうか?
電車に乗っているとき、パソコンを打っているとき、勉強や料理をしているとき、そういった無意識の瞬間にも「正しい舌の位置になっているかな?」と気をつける習慣をつけてください。
パソコンやデスク周りにポストイットで「舌の位置を直す!」と貼っておくだけでも、意識改革には効果があります。
2.舌が間違った位置にあることのデメリット4つ
次に、舌を間違った位置に置いているとお口の健康や機能、見た目にどのような悪影響を与えるのか見ていきましょう。
2-1 歯並びが悪くなる
ほんの弱い力であっても、長期にわたって持続的に負荷をかかけていると歯は少しずつ動きます。
歯の矯正治療で細いワイヤーの力で歯並びが徐々にキレイになっていくのと同じように、舌の力に押されて徐々に歯並びが崩れてしまう可能性があることはすんなりご理解いただけると思います。
下にご紹介する間違った舌の置き方のクセ・歯並びのズレについて、ご自分だけでなくお子さんたちご家族にも確認してみてください。
①舌が下アゴに落ちていて、舌先が下前歯の裏に触れている
舌先がいつも舌の前歯を前方に押しだしていることによって、上の歯の並びに比べて下の歯の並びが大きくなり、「受け口」につながります。
②舌先が常に上の前歯裏に触れている・舌全体は上アゴに触れていない
常に前方へと傾く力を加えられた前歯はいわゆる「出っ歯」になりやすくなります。
さらには、舌全体が上アゴに触れていなかったことで上アゴのスペースがじゅうぶんに広がらなかったために、狭い範囲に歯が生えてくることになります。
そうすると、まっすぐ生えることのできなかった歯同士は重なり合ったり、少しズレた場所(八重歯など)に生えてくるようになります。
それでも奥歯がなんとか生えてくるための場所を得た結果、行き場のない前歯は前方に飛びだしてスペースを確保することでさらに出っ歯になってしまいます。(下の画像参照)
③舌を上下の前歯の隙間に置くクセがある
通常お口を閉じているときは、上の歯と下の歯が触れあわないことが正解なので上下間に隙間があることに問題はありません。(上下を軽く噛みあわせるクセがある人は顎関節症になりやすいため注意が必要です。)
しかし、この上下の歯の隙間に少し舌を出して置くクセがあると、奥歯はしっかり上下が噛み合うのに、前歯付近だけポッカリ空間が開いていしまって噛み合わせられないという「開口」(オープンバイト)になってしまうことがあります。
※開口は必ずしも舌グセだけが原因ではなく、もともとの骨格の問題や幼少期の指しゃぶり、口呼吸によるものもあります。
歯並びの悪さは「見た目」の問題だけではありません
歯並びがきれいでないと人前で口を開けて笑いにくい、顔の輪郭が気になってしまう…というお悩みがあるかと思います。
しかし、実は歯並びの悪さは審美的な問題だけではなく、口臭や虫歯の原因にもなりえるのです!
重なり合った歯の隙間には食べカスが溜まりやすく、歯磨きの際には歯ブラシの毛先が上手く届かないため汚れが落ちにくくなります。
溜まってしまった歯の汚れ(歯垢/プラーク)はやがて、口臭・歯周病・虫歯へとつながっていきます。
2-2 発音や滑舌(かつぜつ)が悪くなる
上アゴに舌を沿わせるだけのスペースがない、また舌を上アゴにつける習慣に乏しく舌の筋力が弱いという場合、サ・タ・ナ・ラ行の発音がしづらくなり、舌が回りにくいため滑舌にも悪影響を与えることがあります。
小さなお子さんにとっては、間違った舌癖がないか気をつけておきたいところです。
2-3 舌癖の影響は顔のゆがみやたるみにも
舌癖によって出っ歯や受け口など、ダイレクトに口元の見た目に影響を与えることがありますが実はそれだけではありません。
舌の筋力が弱く口周りの筋力もじゅうぶんに鍛えられていないために、筋肉の上の皮膚にたるみが出始めたり、口周り上下左右の力のかけ方が均一でないために左右のフェイスラインにゆがみが生まれることがあります。
2-4 舌の筋力低下で唾液腺のはたらきもダウン
舌周りの筋力をあまり使わずにいると、お口周りに張りめぐらされた「唾液腺」といわれる唾液の分泌をつかさどる部分のはたらきが弱まり、唾液量が減ってしまう可能性があります。
唾液の分泌ってそんなに必要なの?と思われるかもしれませんが、実は唾液はお口の中を健康に保つパワーを持っているのです。
食事をするたびにお口の中は酸性に傾き、虫歯菌が活動しやすくなります(虫歯菌は誰のお口の中にもいます)。
これを通常の中性の状態に正し、さらには酸で溶けた歯の表面部分を修復する力が唾液にはあります。
こうして初期の初期のちい~さな虫歯は、唾液の持つ「再石灰化」のしくみで自己回復しているのです。
この唾液の分泌量が減ってしまったら、当然虫歯菌に立ち向かうパワーが弱まってしまいます。
また唾液パワーはこれだけではなく、お口の健康のためにいろんな役割を担ってくれているのです。
くわしくは、『知っていますか?唾液が虫歯予防にパワーを発揮する理由』をご覧ください。
3.舌の筋力を鍛えるストレッチ法はコレ!
正常な位置に舌を置く習慣をつけやすいように、舌の筋力を鍛えるストレッチを定期的に行いましょう。
ここでは、簡単にできる2つのストレッチ法をご紹介します。
3-1 お口全体のストレッチ!「あいうべ体操」
声は出さなくても構いません。
「あ」「い」「う」「べ」と言うときの4つの動作を順番に大きく動かすことで、お口周りと舌を鍛えます。一つの動作を4秒ほどキープするのを意識します。
1セット10回で、日に3セットほど行うのが効果的でしょう。
※顎関節症の方、アゴが外れやすい・痛みを感じやすい方は、顎関節に負担の少ない「い」と「う」のみ繰りかえしてください。
いずれも痛みをともなわない無理のない範囲で行ってください。
①「あ」:のどの奥が見えるくらい大きく口を開ける。
②「い」:口を横にグーっと伸ばす。首の筋肉のすじが浮きあがるくらいが目安。
③「う」:唇をとがらせて前につきだす。口周りの筋肉が収縮しているのを意識。
④「べ」:舌を下向きにつきだす。舌のつけ根が少しツラいくらいがGOOD。
お風呂に入っているときなど、リラックスタイムにぜひ行ってみてください。
あいうべ体操のより詳しい効果を知りたい方は『虫歯予防から小顔効果まで!やってトクする簡単「あいうべ体操」』をご覧ください。
3-2 舌の筋力をアップさせる「ポッピング」
舌を上アゴにグ~っとつけてからポン!っと離すことで、舌の筋力を集中的に鍛えるトレーニングです。
まずは、記事の最初でご紹介した正しい舌先の位置「スポット」を正確に把握しておく必要があります。
手鏡を見て舌先で確認しながら正しいスポットの位置がわかったら、ストローやお箸の先を5秒ほどスポットに軽く当て、舌先が離れた状態でもスポットの位置を把握できるようにしておきます。
①口を開けて、舌先をスポットに触れさせる。つづいて舌全体を上アゴにグ~っと引きつけてそのまま5秒キープ。舌の裏側のヒダの部分がしっかり伸びていることを意識。
②その後、いきおいよく舌を下側にはじいて「ポン!」と音を鳴らす。
これを続けて20回、毎日行いましょう。最初のうちは音を立てるのが難しくても、舌の筋力が上がり慣れてくるとだんだん上手くできるようになってきます。
4.必要な場合は歯医者さんでの専門治療を
正しい舌の位置へのクセづけと舌の筋力トレーニングで改善できる場合もありますが、子どもの頃からの長年のクセやアゴの発育状態、歯並びや舌の動きが制限される先天性の異常がある場合は病院や矯正歯科にて専門の治療や器具の装着をする必要があります。
まずはお気軽にお近くの矯正歯科医院を受診してみてください。
慢性鼻炎や蓄膿症など鼻呼吸がスムーズにいかない症状をお持ちの場合は、まずはそちらを優先的に治療する必要があるかもしれません。
5.まとめ
この記事を読み終わった今、あなたの舌はどの位置に置かれているでしょうか?
無意識でいるとつい慣れた場所に置いてしまいがちですが、今日からできるだけ意識的に気にするようにしてみてくださいね。