ブリッジ治療をしている過程で、なんだか知らないうちに仮歯になっていることがあります
「なんだか知らないけど仮歯?を入れられてる」
「入れられたのはいいけど、なんか違和感があるような気がする」
「医院ごとに仮歯の値段が違うような気がする」
そういった色々な仮歯についての疑問を、説明していこうかと思います
目次
1.仮歯とは、治療中の歯を固定するためのもの
そもそも仮歯とはなんなの?そこから説明していきますね
仮歯は、歯の型どりが終わって最終的な被せ物が被るまでのあいだや、歯を抜いて傷が治るまでのあいだに装着されます。
では、図を使って説明します
ステップ1
真ん中の歯がないのでブリッジを作ることにします
ステップ2
なくなってしまった歯の、横の歯をけずります
ステップ3
仮歯を作ってかぶせます
※このイラストのようなきれいな仮歯はほぼないので注意!
実際の(保険の)仮歯はこんな感じです↓
「仮歯」というと漢字から「歯の形をしたもの」ではないか?とお思いになるかもしれません。しかし、保険診療では「仮歯」という言葉はなく「リテーナー」という言葉が使用されます。では「リテーナー」とは何なのか?
ずばり「リテーナー(仮歯)」の役割は、“歯を動かなくする”ことです
上でも使用した、ブリッジの治療途中の図ですが、歯をけずった状態で放置すると歯が動いてしまうのです!
↑歯がないと、周りの歯が矢印の方向に倒れたり、出てきてしまう!
固定をしないまま日数がたつと歯が動いてしまい、ブリッジと歯がピッタリしなかったり、最悪のばあいはブリッジが入らなくなることがあるのです!
筆者の経験では、リテーナー(仮歯)が入っていない状態で治療中断した3人の患者さんのブリッジが入らなくなったことがあります。もちろんブリッジの作り直しになりました。
作り直しをすると時間もお金も無駄ですよね。
だから、歯を固定するのはとても重要なのです
以上をふまえると、
↑この仮歯は歯の形をしていないけれど、歯を固定するという役割をちゃんと果たしていることになります。
1-2.自費診療だと仮歯の役割が増える
1.の説明は、保険診療(国の決めたルール―内)での仮歯の役割の説明でした。しかし自費診療のばあいは、オーダーメイド治療になるので、仮歯の役割が増えます。仮歯を使用しているあいだに得られる情報が重要だったりするので、自費の仮歯は時間をかけて丁寧につくったり、仮歯の期間をあえて長くすることがあります。
この仮歯は凸凹まで再現されていてキレイで、保険の仮歯とは全然違いますね
2.仮歯におこる違和感
仮歯を付けたあとに、いくつか不快な症状がおこることがあります。そうなると不安ですよね
あまり気にしなくてもよい症状もありりますが、中には早めに歯科医院に行ったほうが良いものもあるので、説明していきます
2-1.すぐに歯医者に行ったほうが良い違和感
これから説明する症状がでた人は、できれば歯医者に電話をしてください。もし、通ってる歯医者の予約がとれなかったら他の医院を探すのも良いでしょう
ズキズキした痛みがでる
神経がある歯のばあい
神経がある歯を削った人で、何もしていないのにズキズキした自発痛がでるときは、神経が炎症をおこしている可能性があります。できるだけ早めに歯科医院に行ってみてもらいましょう。
すぐに予約が取れないときは、痛み止めを飲んで痛みを緩和させてください。神経が非可逆的な(回復しない)炎症をおこしているときは、神経を除去する根管治療が必要になります
神経がない歯のばあい
神経がない歯を削った人で、ズキズキした痛みがでる人は、根っこの先に炎症が起きていることが予想されます。歯科医院にはやめに行きましょう。
根っこの先に炎症があると、物を噛むときに痛みが増幅されます。なるべく、治療した歯でかたいものを食べないように気を付けてください。
このような症状がでた人は、抗生物質を飲んで症状がおさまるのをまつか、根管治療のやり直しをすることになると考えられます。担当医とよく相談して治療方針を決めましょう。
根っこの先に膿がたまり重症化すると、膿の通り道が歯ぐきにできる(左上の犬歯の歯茎が膨らんでいる)
関連記事「根管治療って何?治療の流れをわかりやすく解説します」
噛むと痛い
かむと痛い人は、根っこの先に炎症があるか、仮歯のかみ合わせが高いことが考えられます。
仮歯のかみ合わせが高い人
“何もかんでいない状態で上と下の歯があたるだけで痛みが出る人”は、仮歯が高いと考えられます。こういった人は、仮歯が壊れたり、治療した歯に負担がかかって強い痛みがでることがあります。
根っこの治療をした歯の仮歯が高いと、眠れないくらいの痛みが出てしまう人もいるので、できるだけ早めに歯科医院でかみあわせを治してもらいましょう
根っこの先に炎症がある人
“物をかむときだけ痛い人”は、なるべく治療した歯で噛まないようにしたり、かたいものをさけるようにしてください。それで我慢できるなら、次回予約日まで気を付けて生活しましょう
2-2.経過観察してよい違和感
これから説明する症状は、仮歯だとよく起こることなので、我慢できそうなら様子見で大丈夫です
冷たいものにしみる
これは、神経がある歯を削ったときにおこります。
神経のある歯を削ると、神経につながる象牙細管という管がむき出しになります。その管から冷たいものの刺激が伝わり、しみることがあります。この症状は、歯を削る量が多かったり、患者の歯髄の量が多かったり、仮歯が歯にぴったりしていないことからおこります
しみると少し怖く感じることがあるかもしれませんが、そこまで怖い症状ではありません。冷たいものを飲むときだけしみるのならば、次回予約日まで冷たいものを避けるように気を付けてください
もし、冷たいものではなく、暖かいものや常温のものでしみるようになってきたらそれは危険な兆候なので、早めに歯科医に行ってください
仮歯が取れた、こわれた
仮歯はあくまで“仮のもの”で、強度のない弱い材料で作られおり、接着力のないセメントでくっついています。そのため、仮歯ははずれたり破損することが結構あります
前歯の仮歯で見た目にかかわるときや、次の予約日が1週間以上先で歯の表面や歯ぐきが保護されない期間が長くなる人は、早めに歯科医院に行って治してもらったほうが良いでしょう。しかし、とくに不都合がなかったり、予約が数日後だったりしたら、次回予約日に行けばよいと考えられます。
食べものがはさまる
ブリッジの仮歯は構造的に物が入り込みやすくなります。下の図でいうと、黄色いやじるしのところや青い丸のところに食べものがはいりこんでしまいます
また仮歯の性質上、最終的な被せ物と違ってタイトに歯や歯ぐきにぴったり作れないので、食べものがはさまるのを完全に防ぐのは難しいのです(最終的な被せ物でも、上図の青丸部分に食べものが絶対に!入らないようにするのはかなり難しいです)
以上のことから、食べものがはさまるときは、歯間ブラシなどで優しく取り除くといった対応をお願いします。
仮歯は弱い接着剤でくっついているので、強い力で食べものを取ろうとすると仮歯がとれることがあるので注意してください。
3.仮歯に違和感を感じるのはある程度は仕方がない
仮歯にしたら変な感じがして気になる、見た目もおかしいといった違和感や不満があるかと思います
しかし、仮歯の性質上、「2-1.歯医者にいったほうがよい違和感」で説明した症状以外は起こっても仕方がないという理由があります
3-1.仮歯の材料はもろいので違和感が出やすい
仮歯は歯科用プラスチックでできています。身近なものでは、青い光で固まるジェルネイルの素材に似ています
ネイルをやっている人はご存知かと思いますが、ネイルってはがれますよね…爪が伸びてうっかり切ったら、爪とネイルのあいだから剥離してきますし…
このように、プラスチックは強度がありません。
仮歯はそういった強度のない材料でできています。
(ちなみに最終的な被せ物は、金属やセラミックといった硬い材料でできています)
だから、常に噛む力にさらされている仮歯が、欠けて冷たいものにしみたり、われて壊れたり、仮歯が厚くて舌触りが悪くなるのは仕方ないのです。
3-2.仮歯の作り方は煩雑で難しい
言い訳のようですが、仮歯を作るのは、結構難しいのです。これから簡単に仮歯がどうやってできていくのか説明していきたいと思います。
型どりをして前準備をして作る
まず、当医院(東歯科医院)での仮歯の作り方になります
前もってシリコンという高価な材料で歯の型をとり、患者1人1人の石膏模型をつくります
石膏模型と、シリコンの型を組み合わせて仮歯をつくります
模型上でここまでキレイな仮歯を作ります。患者さんが来院したら、患者さんの口の中で微調整をして、歯を仮歯をピッタリ合わせます。
※1本2000円。3本ブリッジなら2000×3で6000円
その場で1から作る
仮歯の材料をチェアサイド(治療する椅子のすぐ隣)で練って、粘土状にします。その粘土のような塊が柔らかいうちに口の中で直接、型とりします。材料が固まった時点では形もかみ合わせもまったく合っていないので、削って歯の形にします。
前歯の場合は既成冠(きせいかん)といった前歯の形ができあがった仮歯の材料があるので、それを使用して作る場合が多いです
※当医院では、ブリッジの仮歯は、このやり方で作ることはあまりありません
このように、仮歯はもろい材料で、患者さんの口の中という狭くてしめった場所で、微調整をしながら作っていくのです。
そのため、材料的にも製作過程的にも、違和感が出やすくなってしまうのです…
4.仮歯のクオリティが医院ごとで違う理由
仮歯は歯科医院によってクオリティが違ったりします
あと、「今日は仮歯代をちょうだいします」とか言われて「え?」ってなった人もいらっしゃるかもしれません
患者さんにとっては不思議ですよね…
それでは、これからその謎にせまっていきたいと思います
4-1.保険の仮歯は料金が設定されていてクオリティが制限される
ネットでも見れるのですが、歯科点数早見表に診療点数が載っています。
これは、保険診療なら
5本以下のブリッジ仮歯なら100点(3割負担なら300円)
6本以上のブリッジ仮歯なら300点(3割負担なら900円)で
歯を動かないようにする、リテーナーの役割を果たす仮歯を作れということになります
※ブリッジの本数についてはこちら「ブリッジっていくらくらい?~保険も自費も教えます~」
一般的な保険治療枠(15分~30分)で保険診療の範囲内で求められる仮歯(リテーナー)なら作ることはできますが、審美性や研磨性なども完璧に網羅した仮歯をつくるのはかなりキツイです。
そもそも、保険診療は、治療の範囲と治療費が国に決められているので、完成度の高い仮歯を作ってあげたくても材料的・値段的に作れないといった事情があります。
だから、保険の仮歯を装着したときは「なんか歯の形や色がおかしくない?クオリティ低くない?」と感じる人がでてくるのです
身近な例ですと、
保険診療は、「1万円で家族3人分の食費をまかなって。え、少ない?でも、国のルールで値段が1万と決められてるからどうにかしてね」と言われ、
自費診療は、「3人分の食費はこのカードから好きなだけ使って。…品質?伊〇丹とかで一番良いと思う食材を気にせず使っていいよ」と言われる感じですかね……
1万じゃ、食材の品質を落としたりおかずを減らすしかないですよね。1万でカードから好きに使っていいと言われているご家庭と同じ食事を用意はできませんよね
保険診療は、こういった金銭的な縛りありきで治療をしなければならないのです
4-2.仮歯は保険で作ったときと自費で作ったときに差が出やすい
これまでに説明したとおり、仮歯は重要な情報が得られるというのに、保険診療では制限されていてどうしようもないという事情があります。
しかし、自費診療のばあいは、じっくり作ることができるので、保険の仮歯とは比べ物にならないほどキレイなものができあがります。そのかわり、保険より治療費が高額になります。
このため、自費診療を受けたときは、受付で「別途、仮歯の料金が発生する」と言われたりして「仮歯がなぜこんなに高いの?」という疑問に思われるかたが出てくるのです。(保険診療でも仮歯の料金は発生しているのですが、安すぎて請求されていることに気が付いていない人がいらっしゃるかもしれません)
仮歯の値段が保険診療より高額なのは、(保険の枠からはずれたクオリティの高い治療をする)自費診療だから仕方がないのです。
5.美しい仮歯が良いなら、自費の仮歯にする
仮歯のトラブルの1つに、保険診療の仮歯に審美性を求めすぎる人がいらっしゃるということがあります。
上(1.)で申し上げたとおり、保険診療での仮歯は治療中の歯を動かさないという「リテーナー」の役割をクリアすればよいので、保険内で審美的に完璧な仮歯を作ることは難しいです。
こういった事情から、完璧な見た目を仮歯に求めるかたは、最初から自費にしたほうが良いと考えられます
ちなみに、自費の仮歯は1本1000~7000円になり、医院ごとに料金設定が違います。
- 3本ブリッジ仮歯なら、3000~21000円(保険なら300円)
- 5本ブリッジ仮歯なら、5000~35000円(保険なら900円)
※参考記事「ブリッジっていくらくらい?~保険も自費も教えます~」
(当医院(東歯科医院)は自費の仮歯は1本2000円になります)
5-1.実際の仮の一例
保険診療の仮歯の一例
これは柔らかい歯科用プラスチックを歯の周りに覆っている状態になります。
この仮歯のいいところは、何と言っても仮歯を作る時間が短いことです。3分くらいで終わります。
歯の形はしていませんが、仮歯(リテーナー)の役割は充分に果たしています。また、奥歯なのでそこまで人目に触れません。もし、どうしても形が気になるのであれば、マスクなどをして対策しましょう
自費診療の仮歯の一例
これは技工士さんに作ってもらった仮歯になります。形がきれいで、まるで最終的な被せ物のようですね。
しかし、型どりのために来院回数が1回増えます。また、お口の中で微調整をすることになるので、調整する日は30分~1時間くらい治療時間を必要とします。
6.まとめ
いかがでしたか?仮歯の違和感やトラブルの解決、値段の疑問などは解消されましたでしょうか?
もし気になることがあったら担当医に聞いてみてくださいね
クラウン・ブリッジ補綴学 第2版 青木英夫 他 医歯薬出版