予期せぬ天災に見舞われることが多い日本。誰しもが、地震や台風などで避難所生活を余儀なくされるリスクを抱えています
いつ自分が被災するか分からないので、各々が防災グッズを用意しておいたほうが安心です
災害時は、まず命を守らないといけないので歯のケアグッズなどは後回しになってしまいます。しかし、歯が健康であることも、命を間接的に守ることにもなるのです。
今回は、災害時に歯のケアをすることによってどういったメリットがあるのか、そして、防災用品に何を持っていけば良いのかを説明したいと思います
1. 避難所でも歯のケアをしたほうが良い6つの理由
避難所は衛生環境が保ちにくいので、風邪や下痢などの感染症にかかりやすくなります。口は、そういった「感染症の入り口」です。また、それと同時に食事から「栄養を取り入れる入り口」でもあります。
実は、「入り口」であるお口を健康に保つことが、全身の健康に直結するのです。
それでは順を追って説明していきたい思います
1-1.誤嚥性肺炎の予防により命を守れる
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この病気は、お口の中で繁殖した細菌が誤って肺に入っておこる肺炎のことです
高齢者にとって肺炎は命にかかわります
災害時の統計は出ていませんが、高齢者の肺炎のほとんどは誤嚥によるものといわれいます。
熊本地震の災害関連死の統計では、肺炎を含む呼吸器疾患が3割しめています。また、阪神・淡路大震災や東日本大震災でも、呼吸器系疾患で亡くなったとされるかたは3割を超えました
しかし、この恐ろしい誤嚥性肺炎は、お口が清潔に保たれ飲み込む機能が維持できていれば、かかりづらくなると言われています。つまり、歯みがきでお口の中をキレイにして細菌の数を減らせば誤嚥性肺炎は予防できる、という事になります。
以上のことから、肺炎で命を落とす方を少なくするためにも、お口のケアは有効であるということが分かります
1-2.親知らずが腫れやすい人は痛くなるのを予防できる
具体的な統計はないのですが、支援活動に参加された先生たちの経験則から、避難所では口内炎や歯周病といった粘膜の病気が悪化する傾向があります
水が限られているので水が確保できない、歯磨きもしずらい、ストレスや栄養の偏りがある、こういったことから粘膜に炎症が起きやすくなると考えられます。
↑親知らずが腫れて痛みがでる
普段から親知らずが腫れぼったくなることがある人や、親知らずが中途半端に生えて汚れがたまりやすい人は、避難所で痛みがでやすくなります。親知らずが腫れると、人によっては夜も眠れなくなるくらいの痛みが出てしまいます。
こういった症状を防ぐためにも、避難所にも親知らずを磨きやすい形状の歯ブラシを持っていたほうが安心でしょう
1-3.歯が未熟な子供を虫歯から守れる
乳歯やはえたての大人の歯はやわらかいので、虫歯になりやすいです。特にはえたての歯である幼若永久歯(ようじゃくえいきゅうし)は、虫歯から守ってあげたほうが子供の将来のためになります
上の図の(1)にあるように、幼若永久歯は噛む面の溝が深いといった特徴があり、この溝に食べカスがたまると虫歯になってしまいます
溝の虫歯は↑この写真のように黒くなってしまい、歯がやわらかいことも相まって虫歯が歯の内側であっという間に広がってしまいます。
そうならないためにも、保護者が食事のあとに噛む面の凸凹した部分を仕上げ磨きしてあげたほうが良いでしょう
1-4.妊婦さんは早産や痛みによる体力低下を避けられる
妊婦は歯周病になりやすい!
妊婦さんは歯ぐきが腫れやすくなり、これを妊娠性歯肉炎と言います
↑前歯の部分の歯ぐきが腫れやすくなるのが特徴
これは、エストロゲンという女性ホルモンがある種の歯周病原細菌の増殖を促すこと、また、歯ぐきを形作る細胞がエストロゲンの標的となるからとされています。
また、プロゲステロンというホルモンは炎症の元であるプロスタグランジンを刺激します。これらのホルモンは妊娠終期には月経時の10~30 倍になるといわれており、妊娠中期から後期にかけて歯ぐきに炎症が起こりやすくなるのです
歯ぐきが腫れやすくなるのに関連して、親知らずの周りも腫れやすくなります
↑妊婦は親知らずの周りが腫れやすくなる
妊婦さんは薬を気軽に飲めないので、歯ぐきや親知らずの腫れによる痛みが起きないように予防することが大切です
毎日歯みがきをすることでお口の中のバイ菌の数を減らすと、炎症を予防できます。
歯周病がある妊婦さんは早産や低体重児早産のリスクが高まる
近年、歯周病が全身に悪影響を及ぼすことがわかってきました。これは歯周病による炎症が血流を介して全身に波及するために起こるとされています
そして、妊娠している女性が歯周病になってしまうと低体重児および早産のリスクが高くなると言われています
そのリスクは実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字なのです
つわり体があったり、身体が重くて思うように動かず大変かと思いますが、赤ちゃんを守るためにもお口の中をキレイにして早産リスクを減らしましょう
1-5.入れ歯のケアをすると食欲が保てるので体力維持になる
入れ歯には白い汚れがたまります。この汚れはプラークといったバイ菌の塊です。入れ歯についた汚れを取らずに入れ歯を使っていると、入れ歯に接している粘膜が炎症を起こしてしまいます。
↑入れ歯の裏側を見ると、白い汚れが溜まっていることが分かる
粘膜に炎症をおこしてしまうと、入れ歯を使う時に痛みが出て、噛みづらくなったりしゃべりにくくなります。
しゃべらないとお口の中の汚れが停滞しやすくなります。そして食べなくなると体力がおちて病気にかかりやすくなります
体力を維持して病気にならないためにも、歯だけでなく入れ歯もキレイにすることが大切です
1-6.きちんと食事ができるので、結果的に体力を保てる
避難所生活では色々なことが制限されて沢山のストレスにさらされるので、どうしても免疫力が落ちて病気にかかりやすくなります。
免疫力を維持するためにも、食事をきちんととる必要があります。お口の中が痛いと食事がままならなくなり結果的に全身状態が悪くなります
↑左から2つめの□内にあるように「飲まない・食べない」ことをする、様々な病気の原因になります
以上のことから、避難所でもお口のケアはとても大切ということが分かります
2. 避難所で行う歯磨きの方法
それでは避難所でどうやって歯を磨けば良いのか説明していきます
2-1.コップの中に少量の水を入れて歯ブラシを濡らす
まず、コップに30mlくらいの水を入れてそこに毛先を浸しましょう。
もし水を節約したいときは乾燥した歯ブラシのまま磨いても大丈夫です
2-2.その人にあった歯磨き方法を行う
避難所ではストレスがかかるので、歯ブラシでお口の弱いところをケアすいないとそこから痛みなどの症状が出ます
人によって重点的に磨いてほしい箇所が違うので、以下を参考にしてください
子供の歯磨き
子供は「虫歯予防」をすることが大切になります。なので、歯の表面を磨くようにします。図のように、歯の表面に毛先を直角にあてて小刻みに磨きましょう
乳歯や幼若永久歯は虫歯になりやすいので保護者が仕上げ磨きで汚れをとりのぞいてあげましょう。どれが大人の歯か分からない人は、とりあえず奥歯の凸凹した噛む面に食べかすが残らないようにしっかりと仕上げ磨きをしてあげてください。
また、お子さんにもフロスをすることも大切です。特に乳歯はフロスをしないと、歯と歯のあいだから虫歯が広がります。子供がフロスを使うのは難しいので、可能ならば、親御さんがお子さんにフロスを毎日してあげてください
成人や妊婦の歯磨き
大人は「虫歯予防」に加え、「歯周病予防」もしないといけません
なので、歯と歯ぐきのあいだに歯ブラシの毛先をあてて、汚れを取り除いてください
また歯と歯の間からも歯周病が進行するので、フロスや歯間ブラシも使用したほうが良いでしょう
親知らずが中途半端に生えている人は、タフトブラシなどの頭の小さい歯ブラシを使って汚れを取り除きましょう
↑タフトブラシで親知らずを磨く
部分入れ歯の人
部分入れ歯を使用している人は、入れ歯を支えている歯(鉤歯/こうし)に汚れが溜まりやすくなります。また、先述したとおり入れ歯のケアもしないといけません
以上の事から
「虫歯予防」
「歯周病予防」
「鉤歯の虫歯予防」
「入れ歯の汚れとり」
の4つをしないといけません。
鉤歯(上図の青矢印)は歯の側面(上図の黄色い部分)に汚れがたまります。歯ブラシを歯の横にあてるようにしましょう。また、大きなサイズの歯間ブラシがあると効率よく磨くことができます
入れ歯についた汚れは、歯ブラシで軽く磨いたり、ティッシュなどがあればそれでぬぐってあげましょう
総入れ歯の人
総入れ歯の人は、「入れ歯の汚れとり」「粘膜の汚れとり」をします。
入れ歯の裏側に汚れがたまらないように気を付けましょう。
また、「あいうべ体操」などでお口まわりの筋肉を動かすことによって唾液の分泌を促し、粘膜を清潔に保つようにするのも良いとされています
「あー」と大きく口をあける
「いー」と口を横に広げる
「うー」と口を前に突き出す
「べー」と舌を思い切り伸ばす
2-3.歯ブラシをキレイにぬぐう
歯ブラシが徐々に汚れてくるので、ティッシュペーパー(あればウエットティッシュ)で汚れをできるだけ拭き取り、また歯磨きをします。これを小まめに繰り返します。
2-4.ペットボトルの水で口をゆすぐ
少量の水をペットボトルに入れて2~3回に分けて口をゆすぎましょう。一度にゆすぐより、回数を分けたほうがキレイになります
3. 非常用持ち出し袋にいれておきたい歯磨きグッズ
非常用持ち出し袋に用意しておきたい歯磨きグッズを紹介します
3-1.歯ブラシ
歯ブラシを備蓄している避難所は多くありません
普段使い慣れている歯ブラシを入れておきましょう
3-3.歯間ブラシ・フロス
歯間ブラシとフロスは、避難所にはまず置いてありません。
妊婦さんや小さいお子さんは、歯と歯のあいだをキレイにする歯間ブラシやフロスもあったほうが安心ですね
歯間ブラシに関しては自分の歯のすき間のサイズにあっていることが重要です。普段使っているものがある人は非常灯持ち出し袋に入れておきましょう
3-4.口腔ケア用のウェットティッシュ
うがいをする水がないときに手軽にお口をきれいにすることができます。未開封のものを入れておきましょう
3-5.液体歯磨き
液体タイプの歯磨き剤があると水を節約したいときに助かります。刺激の少ないノンアルコールのものがおすすめです
3-6.入れ歯ケース
入れ歯を使っている人は、入れ歯のケースがあったほうが安全です。
入れ歯をティシュにくるんで置いておいて、うっかり入れ歯ごと捨ててしまうといったことを防げます
また、寝る時には入れ歯をはずしたほうが粘膜を休ませることができます。ケースがないと「入れ歯を置いておく場所がない」と言ってお口に入れっぱなしにする人が出てくるかもしれませんが、ケースがあればそれに入れ歯を保管すればよいので便利ですね
3-7.入れ歯洗浄ブラシ・洗浄シート・洗浄剤
入れ歯を清潔に保つために、入れ歯のブラシや洗浄シート、洗浄剤があると良いですね。もし、非常用袋にスペースがないときは、入れ歯用ブラシは歯ブラシで、洗浄シートはティッシュなどで代用することができます
4. まとめ
いかがでしたか?
お口のケアは命に直接かかわりがないように思えるので、どうしても後まわしにしてしまいますが、意外にも全身の健康に関係していることがお分かりいただけたでしょうか?
命を守るためにも、そして炎症による痛みに苦しまないためにも、非常用袋にぜひオーラルケア用品を忍ばせておいてください