歯を抜くときに、痛みを感じないように麻酔をしますね。歯医者でする麻酔というと、注射を刺されるというイメージが強いかと思います。実際に行われる麻酔方法は、大体が注射によるものです。
しかし、人によっては全身麻酔で抜歯をすることがあります
抜歯をするのに、担当医に全身麻酔じゃないと無理だと言われた人
抜歯を全身麻酔でできないのかと考えている人
そんな方いらっしゃいませんか?
全身麻酔で抜歯をした人なんて身の回りにあまりいないし、びっくりしたのではないでしょうか?今回はそういったかたの疑問や不安を解消できるよう、歯科における全身麻酔について説明していきます
目次
1.全身麻酔がそこまで怖くないと思える3つの理由
これから全身麻酔をするとどういったメリットがあるのか説明します。これを知れば、全身麻酔でやってみよう…と思えるかもしれません
1-1.全身麻酔は寝ているあいだに治療が終わる
全身麻酔は、痛みと意識を完全になくすことができるので、患者は寝ているあいだに治療を済ませることができます。手術当日までは何をされるのか緊張と不安でいっぱいだと思います。しかし、いざ本番を迎えると、麻酔をかけたらすぐに意識がなくなって、次に目が覚めた時はすべての治療が終わった状態でベットの上にいます。
彡(。)(;)「(麻酔こわい治療こわい辛い)」
(´・ω・`)「麻酔かけますー吸ってください」
彡(。)(;)「(なんかこわいとりあえず吸う、こわいこわ…)」
彡(-)(-) ZZZ
暗転
(´・ω・`)「もう終わりましたよー」
彡(゚)(゚)「…え??」
↑本当にこんな感じになります。
1-2.治療“中”の恐怖や痛みを全面カット!
全身麻酔は、手術当日までにたくさんの事前検査やかしこまった説明があったり、手術は1日~6日近く拘束されますが、面倒くさいのはそれだけです。麻酔がかかっているあいだは「治療が怖い」「麻酔が怖い」「歯医者が怖い」といった恐怖や不安はいっさいなくなるので、全身麻酔は「時間的負担」と「金銭的負担」がありますが、「精神的負担」をかなり軽減できます。
上の表を比べると、全身麻酔は痛みと意識の両方をなくすことができるという大きなメリットがあります。歯医者が怖くて怖くてたまらない人にとっては、意識がない間に歯を治すことができるという、とても優れた方法になります
1-3.入院しないで全身麻酔で抜歯できることもある
日帰り全身麻酔とは、入院をせず1日で治療がおわる麻酔方法です。入院をしない分、費用をへらすことができます。
日帰り全身麻酔で行える人は、2時間以内におわる症例で、責任をもって介助できる付き添いがいる人になります。
1人暮らしの人は、家に帰ってから急変しても誰も助けてくれないので、日帰りではなく入院をしたほうが安心です。いざという時に受け入れてくれる救急病院を把握していない、車を運転できる家族がいないという人は、何日か入院するつもりで全身麻酔で抜歯をしたほうが良いでしょう
注意!全身麻酔のセッティングで耐えてほしい3つの痛み
全身麻酔は、呼吸がとまらないようにするために挿管をし、点滴をして薬を効率よく体に入れられるようにします。また、人によっては尿を漏らさないように導尿をすることがあります。
- 点滴を刺すとき
- 挿管を抜くとき
- 導尿を抜くとき
全身麻酔において、上記の3つの時だけは痛みに頑張って耐えてください。
精神鎮静法
歯科では、精神鎮静法という麻酔のやり方があります。
静脈鎮静法とは、(薬によりますが)痛みをなくすことができません。しかし、意識をぼんやりさせることができます。
ぼんやりというのは、スタッフが治療中に患者に声をかけると返事をしたり、体をゆすると反応をしめすくらいの状態のことをいいます。
寝ぼけた人に声をかけたり体をゆすると返事をしたり身じろぎをしますよね。しかし、後から「そんなことされた記憶はない」と言われたことがありませんか?鎮静法とはそういった状態にする麻酔法です。
意識をぼんやりさせているあいだに、局所麻酔をして痛みをなくし、治療をすすめます。ぼんやりしてるので、麻酔をされていることに気が付きません。
精神鎮静法で抜歯やインプラントなどのオペをする患者は、医師から「全身麻酔でやる」とか「全身麻酔みたいのでやる」と説明されることがあります。これは、「精神鎮静法」よりも「全身麻酔」のほうがイメージしやすいので、便宜的にこのように説明する歯科医院があるということになります
2.全身麻酔の不安を解消する3つのポイント
全身麻酔はそんなに大変なことではないのですが、そうは言っても気になることや不安はありますよね。これから、そういったことを解消するために説明してたいと思います
2-1.全身麻酔が原因の事故はほぼ起こらない
全身麻酔をかけられて麻酔がかかりすぎてそのまま死んでしまうかもしれない。そんなことを思っている人いませんか?
現在おこなわれている全身麻酔法は、麻酔の専門医が行えば安全性が高く死亡リスクはとても小さいとされています。麻酔が原因の死亡事故が起こる確率は、10万例に1以下といわれています
ちなみに飛行機事故で死ぬ確率は1/5051。歩行者の交通事故の確率は1/626だそうです。こうやって比べてみると、麻酔で死ぬことは「絶対にない!」とは言い切れませんが、かなり安全だということがわかります
2-2.治療費は保険が使えるので一部負担で済む
全身麻酔はどれくらいかかるのか気になりますよね。治療の範囲と入院日数によってかわるので値段を断言できませんが、事前検査・入院・麻酔・治療すべて込みでおよそ7~12万円(3割負担)かかります。
公的な健康保険で安くなる
全身麻酔は健康保険をつかうことができるので、高くても3割負担ですみます。さらに医療費受給者証がある人は、自己負担金は公費負担、もしくは低額になります。
個人で入ってる医療保険は契約内容しだい
契約内容によりますが、医療保険は残念ながら適応されないことが多いです。しかし入院給付金は出るので、保険会社に問い合わせて給付金をもらえる人はもらいましょう。
はやめに治したほうが、金銭的・社会的・精神的メリットがある
7~12万円が高いかどうかですが、抜歯が必要な歯を放置して将来的にその歯にトラブルがおこることを考えると、長期的に見て安いと考えられます。
金銭的な側面
抜いたほうがよいと診断された歯や、状態の悪い親知らずを残したままでいると、痛みが出たり、隣の歯が虫歯になったり、かみあわせが悪くなったりします。親知らずの手前の歯が歯の脇から虫歯になってしまい、親知らずのせいで抜くことがあります。そうなると、抜いたあとに治療をしなければなりません。
なくなった歯を補う方法は、主に3つあります。
1つめはブリッジです。ブリッジは金属量が多いので保険でも高いし、白いものが良いということでしたら更に高くなります。
2つめの入れ歯は、金具がかかっている歯が虫歯になりやすくなるし、自分の歯よりもよく噛めないし、入れ歯を入れていることに精神的ショックを受ける人がいるなど、色々嫌なことがあります。
3つめのインプラントは治療費が高額です。土台の歯や歯ぐきの手術をするとなるとどんどん治療費が増えます。
このように、抜いたほうが良いと診断された歯を放置することで、数年後の自分が金銭的に苦労をすることがあります。
社会的な側面
働き盛りの年代のかたで、せっかくの休日に歯医者にきて歯痛の応急処置をしたり、仕事を休んで「職場に無理言って休んだから今日で痛みをどうにかしてくれ」と訴える人がいます。残念ながら、腫れがひどいときはその日のうちに抜けないので、1日でどうにかできず、後日また来てもらうことになります。
早めに抜いてしまえば、来院する時間を節約できるし、仕事を休まずに済んで社会的な信頼を保つことができます。
精神的な側面
女性のばあいなのですが、妊娠したときにつわりがひどくて歯磨きができなくなり、親知らずが腫れてしまう人がいます。
以前、あまりにも口の中の状態がひどい妊婦が来院し、説明と同意のもと麻酔をして応急処置をしたことがあるのですが、「麻酔の影響が胎児にないのか」と気にしていました。学術的には麻酔の影響はないと説明しても、気分的にはもやもやする人が多いのが現実です。
「自分1人の体のときにガンバって抜けばとかった」と後悔はしてほしくないので、将来子供がほしいと考えている女性は、学業や仕事のあいまをぬって、妊娠するまえに抜くべき歯を抜いたほうがよいと私は思います。
以上のことから、歯科治療は怖いので後回しにしてしまいがちなのですが、勇気をもって治してしまったほうが長いスパンで金銭的にも社会的にも精神的にもメリットがあるということになります
2-3.事前に準備するものはお泊りの準備くらい
全身麻酔する患者に用意してもらいたいもので高価なものはありません。基本、お泊りの道具になります。特別なものはありません
日帰りの人の持ち物(一例)
- パジャマ(前あき)
- バスタオル
- ハンドタオル
- ビニール袋(汚れ物入れ)
- ジュース(麻酔がさめてから飲ませる)
- 着替え(下着)
入院する人の持ち物(一例)
- 拍数分の着替え
- 上着(売店に行くときとかにはおる)
- 拍数分のタオル
- ビニール袋(汚物入れ)
- 歯ブラシ・コップ
- スリッパ
- ティッシュボックス
- ウェットティッシュ(あると便利)
- 充電器
- 暇つぶしの道具
3.全身麻酔のメリットを生かせる人とやっちゃ駄目な人
全身麻酔はやったことによるメリットを得られる人と、そもそも全身麻酔をかけてはいけない人がいます。全身麻酔で治療をしたいと思った人は、チェックしてみてください
3-1.全身麻酔でやったほうがいい人
抜歯をするときは、大体の人が局所麻酔と静脈鎮静法で事足ります。しかし、以下の人は全身麻酔で処置したほうがよいとされています
- いっきに歯を抜いてしまいたい人
- 治す歯がたくさんある人
- 局所麻酔アレルギーがある人
- 恐怖心が強すぎる人
- 嘔吐反射がひどい人
- 障害児や低年齢といった意志の疎通が難しい人
日帰り全身麻酔ができる人
全身麻酔をするのにできれば日帰りですませたい人がいるかと思います。しかし、一定の条件を満たさなければ日帰り全身麻酔はできません。該当する人は以下のとおりになります
- 手術時間が2時間以内でおわる人
- 手術あとに、入院による管理を必要としない人
- 術後、帰宅するまで面倒をみてくれる付添人がいる人
3-2.全身麻酔をやってはいけない人
全身麻酔をしてはいけない人、なるべくさけたほうがいい人がいます。全身疾患がある人は特に注意が必要なので、問診のとき担当医に「いつから病気なのか」「検査データの詳細」「現在の状況」等くわしく説明してください。
- 風邪をひいていたり、下痢や発熱がある人
- 胃の中に食べ物がある人
- 重篤な全身疾患がある人
- 気道確保が困難な人
- 骨格筋に異常のある人
- 妊婦
4.全身麻酔のステップ
全身麻酔すると決まったら、どういった流れてすすむのか説明します。病院によって処置の内容が前後することがあるので、あくまで参考ということでお願いします
4-1.事前検査
全身麻酔をするまえに色々な検査をします。下に列挙しましたが、健康診断の一環だと思ってみてください。この事前検査で1万円前後かかります
- 問診
- 身長・体重
- 開口量・頸部の運動制限の確認(挿管困難の予測をする)
- CT等画像診断
- 呼吸機能検査
- 血圧・心電図・胸部エックス線写真
- 血液検査(貧血・凝固系・電解質・腎機能・肝機能などの確認)
- 尿検査(糖尿病・腎機能障害の確認)
4-2.手術前日
入院のばあい
前日から入院しているときは、担当医や看護師の指示を聞きましょう。消灯時間にはちゃんと寝ましょう
外来のばあい
指示された時間から手術まで、食事や水をとらないようにします。また、夜更かしをしないようにしましょう。
朝起きた時(手術当日)の体温をはかるように指示されることがあるので、忘れずにはかりましょう。
指定された時間に遅れないように病院に行きましょう
4-3.点滴をする
手術着に着替え、手術室に移動するまえに点滴をします。入院するばあいは前日に点滴をして、点滴をしたまま寝ることもあります
4-4.手術室に移動
ストレッチャーに乗って手術室にはこばれていきます
4-5.モニタ類の装着
手術室についたら、麻酔中に全身をチェックするためのモニタなどの機械をつけていきます。そして布を体にかぶせていきます
4-6.麻酔をかける
麻酔をかけます。最初にガスを吸うときもあるし、点滴から薬をいれるときもあります。点滴する薬によっては、点滴した腕がチクチク痛かったりヒヤリとつめたい感じがします
麻酔をかけると大体の人がすぐに意識をなくします
4-7.麻酔から醒める
施術がおわると麻酔をぬいていきます。人によっては、手術室にいるときに早くも目がさめる人もいるし、ベッドの上に運ばれるまで目が覚めない人もいます。個人差があります
ストレッチャーに乗って病室まで運ばれて行きます
4-8.術後管理
麻酔から完全に醒ますために横になり、全身の状況を確認するためにモニタなどをつけたまま休みます。酸素マスクを2~3時間着用したまま休むことが多いです。
止血のためにガーゼなどを噛んでもらっています。出血が多いときはガーゼを何回も交換します
4-9.帰宅
入院するばあいは、予定された退院日まで病院で経過をみます。大丈夫と判断されたら予定日に家に帰れます。
日帰り全身麻酔のばあいは、止血確認ができ、バイタルが安定し、フラフラすることなく、水が飲めて、自力で排尿ができたら付添人と一緒に帰れます。帰宅途中で気持ち悪くなったり、吐いたり、めまいがするようであるなら、付添人は車をとめたり電車からおろしてください。あと、次の日の状況を担当医に電話確認するよう指示を出されることがあるので、忘れないように連絡してください
5.全身麻酔をより安全にするために注意すること
全身麻酔はそんなに恐ろしいものではないのですが、やる時はトラブルが起きないように注意をしなければなりませんよね。では、一体なにを注意すればスムーズに治療が進むのか、ポイントを説明します
5-1.他に病気がある人は担当医に伝える
全身麻酔は、重篤な全身疾患がある人はやってはいけないとされています。自分が全身麻酔ができるかどうか判断するために、治療中の全身疾患や、過去に大きな病気にかかったことがある人は、そのことを担当医に伝えてください。また、医者の指示ではなく自分の判断で治療を中断していたり、薬を飲むのを勝手にやめてしまった人も、隠さずにそのことを担当医に伝えてください。
伝えたほうが良い疾患
- 喘息(小児喘息含む)
- 腸管穿孔
- 気胸
- 目の病気
- 中耳疾患
- アレルギー
- 骨粗しょう症
- 脳血管疾患(脳卒中・脳梗塞 等)
- 心臓病(狭心症・心筋梗塞・不整脈・ペースメーカー使用 等)
- 高血圧
- 糖尿病
- 腎臓病(腎不全・腎炎 等)
- 肝臓病(肝炎・脂肪肝・肝硬変 等)
- 凝固系の異常(血がとまらない人)
全身疾患を伝えるのにあると便利なもの
- お薬手帳(薬飲んでいる人は持ってきてください!)
- 血圧の記録
- 糖尿病の記録
- 病歴の記録
5-2.生活で気を付けること
タバコはやめる
教科書的には全身麻酔をする前の8週間は禁煙をしたほうが良いとされています。タバコをすう人は全身麻酔をすることになったと分かった日からがんばって禁煙をしましょう
体調管理に気を付ける
充分な睡眠をとって体調管理(風邪や下痢)に気を付けてください。治療予定日の1週間以内に風邪をひいたばあいは日程を延期をすることがあります。
治療が長引くのが嫌で、体調が悪いことを隠してしまうと、全身麻酔をするときのリスクがあがります。安全に治療をするためにも、風邪をひいてしまったらすぐに担当医に連絡をしましょう。
筆者のつぶやき
話は変わりますが、筆者は全身麻酔ではなく静脈鎮静法という麻酔を2回かけことがあります。
1回目はよく寝て体調が良い状態で実施したのですが、麻酔をかけた瞬間に記憶がなくなり目が覚めたらすべて終わっていました。治療中の痛みや記憶は全然ありませんでした。
しかし、2回目は1~2時間しか寝ていない状態で麻酔をしました。そしたら麻酔はかからないし、痛いし、術中の記憶はばっちりあるしで地獄でした(ふつうは健忘作用で術中の記憶は忘れる)。おまけに麻酔から醒めるときも気持ち悪くて吐きました
担当医に確認したところ、同じ麻酔薬で同じ量を使用し、どうして麻酔がかからなかったのかよくわからないそうです。
原因は不明、と言われたわけですが、個人的に「寝てなかったからじゃないの?」と疑っています。このことから、全身麻酔をするかたは、体調は万全な状態でおこなったほうが良いと思います。
前日の決められた時間から食事制限をする
全身麻酔をかける人にとって、食事制限や飲水制限はとても大切です。なぜなら麻酔を始めるときに胃の中に物があると、吐くことがあり、これが気管に入るとても危険だからです
「×時からものを食べないでください」と具体的な指示がでると思うので、それを絶対に守ってください!喉が渇いても水など飲まないでください。お子さんが患者のばあいは飲食することの危険性を説明をして、保護者に隠れてものや水を採らないように注意してください
5-3.麻酔する当日の身だしなみで気を付けること
顔色を見て安全を確認したいので、濃いメイクはしないでください。
爪から酸素飽和度(血液中のヘモグロビンとくっついている酸素の量)を確認するので、マニキュアやネイルはとってください。特にジェルネイルのかたは、当日までにサロンで絶対にオフしてきてください
日帰り全身麻酔の人は、麻酔をした日に帰るので、転ばないようにハイヒールを避けてください。できればぺったんこ靴かスニーカーで来てください。
6.まとめ
全身麻酔というと、大げさな感じがして少し怖いかもしれません。しかし、実際は麻酔じたいのリスクはとても低く、術式は確立している安全な方法であります。麻酔をするまでの事前準備や終わったあとの回復時間がかかるので、少し大変ですが、あまり気負わないようにしてください。手術当日に体調不良になると治療が延期してしまうことになってかえって大変になるので、全身麻酔をする人はなるべくリラックスして当日を迎えるようにしてくださいね
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