みなさんは「噛ミング30」という言葉を知っていますか?
「噛ミング30」とは、平成21年(2009)に厚生労働省が「歯科保健と食育のあり方に関する検討会」にて提唱した、地域における食育を推進するためのスローガンです。
食事の際にひとくち30回噛むことを目標としたものです。
毎日食事をする中で、自分が何回くらい噛んで食べ物を飲みこんでいるか意識したことはあまりないかもしれません。
つい忙しくて時間がなかったり、面倒だったりしてあまり噛まずに食事をしてしまうクセがついている方もいらっしゃるかもしれません。
「よく噛んで食べる」、小さな頃から大切なこととして親や学校の先生から教わってきたことかもしれませんが、なぜよく噛む必要があるの?よく噛んで食べるとどんないいことがあるの?というところまでは詳しく知っている方はあまり多くないと思います。
この記事では「噛ミング30」のスローガンをもとに、噛むことの大切さとその習慣を定着させるためのコツについてご紹介していきます。
目次
1.噛むことのメリットの合言葉「ひみこのはがいーぜ」とは?
よく噛んで食べることのメリットをまとめたもの、それが「ひみこのはがいーぜ」という合言葉です。
それぞれの文字の意味について、ひとつずつ見ていきましょう。
1-1 「ひ」…肥満防止
まず最初の「ひ」は、ダイエットに関心の高い人も気になる「肥満防止」というメリットです。
これはよく噛むことの大切さとして、比較的有名な理由として耳にすることも多いかと思います。
「ちゃんと噛むと満腹中枢が刺激されて、お腹がいっぱいだと感じることができる」など。
このメカニズムとしては、よく噛むことでお口の中に唾液が多く分泌されることにあります。
唾液が出ると、血液の中の糖分濃度が上がり脳の満腹中枢が活性化するため、「よく食べたなあ」と感じやすいのです。
ダイエットにいい影響があるのはもちろん、生活習慣病の予防にもつながります。
ただし、食べる量自体も腹八分目にすることがとても大切です。
1-2 「み」…味覚の発達
白米や味付けがされていない食パンなど、しばらく噛んでいるとだんだん甘みを感じてくる経験はありませんか?
よく噛むことで、たとえいつも食べているのと同じ食材であってもより深くその味を感じ取れるようになります。
濃い味付けや辛いものがお好きな方も、ときには食材本来の味をじっくり感じてみよう!という気持ちでよく噛んで食事してみると、目新しくて面白いかもしれません。
1-3 「こ」…言葉の発音がハッキリ
よく噛むことは口の中だけではなく、口周りの筋肉にも良い影響を与えます。
噛むたびに頬や舌の筋肉が動かされることで鍛えられていき、言葉を発音する際にもそれら筋肉をうまく使って動かすことができるため、明瞭な発音の助けになります。
また、表情をつくる筋肉も鍛えられるので豊かな表情づくりにも良い影響を与えるでしょう。
小さなお子様にとっても、「よく噛む」ということは成長のためにとても大切なのです。
1-4 「の」…脳の発達
こちらの項目も、小さなお子様はもちろん大人や高齢者の方にも大きなメリットとなるものです。
食べ物が口に入り、それをよく噛むことで脳の血流が良くなり脳細胞のはたらきを活発にします。
「考える」ということに大切な、記憶力や判断力、集中力が高まります。
また反射神経にも良い影響を与えてくれます。
認知症予防にもなるため、どんな年齢層の方でも噛むことは常に大切なことであるとおわかりいただけると思います。
1-5 「は」…歯の病気予防
よく噛むことで唾液腺という器官が刺激されると、お口の中の唾液の分泌量が増えます。
この唾液という存在は、「ひ」の項目でお伝えしたように肥満防止に効果を発揮してくれるような体のはたらきを助けてくれるものなのですが、実は歯周病や虫歯の予防にも役立ってくれる優れものなのです!
たとえば、虫歯というものは
①お口の中に残った食べカス
②虫歯菌の活動
③歯の質の弱さ
の要素が合わさって生まれてしまいます。
唾液は3つのパワーによって歯を虫歯から守っています。それらをくわしく見ていきましょう。
①自浄作用で食べカスを洗い流す
食事のたびにお口の中や歯の表面には食べた物のカスが残ります。これを唾液が洗い流すことでお口の中を清潔にし、虫歯菌が活動しにくい状態をつくります。すっぱいものを食べたときにしか出ないイメージのある「唾液」ですが、実はお口の中で常に分泌されており、こうしてお口の中をお掃除してくれているのです。
②酸性になったお口を中性に戻す
虫歯菌は誰のお口の中にも存在しています。生まれたばかりの赤ちゃんのお口にはいませんが、成長過程で感染するなどして住みつくようになります。この虫歯菌がエサにするのが、お口に残った食べカスです。食べカスを食べた虫歯菌は酸をだし、その酸によって歯の表面が溶かされることで虫歯ができやすくなってしまいます。これを脱灰(だっかい)といいます。
《脱灰のしくみ》
脱灰がおきて酸性にかたむいている状態は歯にとって大変危険です。これを助けてくれるのが唾液の中和作用です。唾液はお口の中を酸性から通常の中性の状態へと戻してくれます。だいたい食後40分ほどかけてゆっくりと本来あるべき状態に戻っていきます。
③再石灰化で歯の質を強化する
唾液は酸によって溶けてしまった歯の表面をコーティングしなおして修復する力も持っています。これを再石灰化(さいせっかいか)といいます。食事のたびに危険にさらされる歯が虫歯にならずに済むのは、この自然治癒力のおかげなのです。この再石灰化というしくみは虫歯の予防だけではなく、できてしまった初期虫歯を治すパワーも持っているのです。初期虫歯とは歯の表面のエナメル質といわれる組織が溶けはじめて白く濁っている状態のものをいいます。
《再石灰化のしくみ》
こうして、唾液は歯の健康を守るために私たちが気づかない間も活躍してくれているのです。
さらに!実は唾液が助けるのは歯の健康だけではありません。
ほかにもいくつかの体を健康に保つための以下の作用をもっています。
・消化作用…食べ物の分解を促進し栄養素を吸収しやすくすることで胃の負担を減らす
・抗菌作用…風邪などの細菌を抗菌・殺菌する
・溶解作用…食べ物を分解させて味覚を感じる場所に浸透させやすくすることでより味覚をするどくする
・潤滑作用…お口の中に潤いをもたせることで食べ物の咀しゃく・飲みこみを容易にし、発声もしやすくなる
・排出作用…体に害のある異物を唾液でつつみこむことでスムーズに体外に排出しやすくする
1ー6 「が」…ガン予防
また、唾液の中にはガン細胞の活動を抑えてくれる酵素(こうそ)が含まれています。
「よく噛むことを意識してみる」、それだけでこれだけの良い影響がお口の中、体の中で起きているんですね。
1-7 「い」…胃腸快調
よく噛んで食べるということは、お口の中の食べ物が小さく細かく砕かれた状態になるということですね。
この状態になった食材を飲みこむと、胃や腸にとってはとても消化がしやすくなり、胃腸にかかる負担を軽減することができます。
あまり噛まずに飲みこむクセがある方は、胃腸をいたわる意味でもよく噛むことを意識するようにしましょう。
また、小さなお子さんや飲みこむ力が落ちてきている高齢者の方にとってもよく噛んで食材を小さくしてから飲みこむことは安全のためにとても大切です。
1-8 「ぜ」…全力投球
噛む、食いしばるという動作は手足の先まで全身にパワーを行き届かせることができます。
ただし食いしばること自体がクセになってしまっている人(上と下の歯は何もしていないときは触れ合わないのが基本です!)、就寝中などに歯ぎしりのクセがある人、痛かったり詰め物・かぶせ物が合っていない歯がある人、顎関節症の人、そのほか歯やお口のトラブルをかかえている人は無理に食いしばることはキケンなので避けましょう。
できるだけ早めにかかりつけの歯医者さんに行き、トラブルの原因を治すようにしましょう。
歯ぎしりの気になる方は、歯医者さんで就寝時につけるマウスピースを作ってもらうこともできます。
歯ぎしりについて詳しく知りたい方は、『歯だけじゃない!体にも悪影響を与える「歯ぎしり」の正体とは』の記事もご覧ください!
2.「よく噛む」を習慣化させるためのコツ
「よく噛むことの大切さはわかったけど、つい忘れてしまっていつも通り食事してしまいそう…」「30回も噛むのはさすがに大変だなあ」という方も多いかと思います。
ここでは、ひとくち30回ということにはこだわらず、「よく噛む」ということだけをまず意識していくためのコツについていろいろご紹介してきます。
「これなら簡単にトライできそうかも…」「このやり方なら子どもも一緒にできるかも」というものが見つかりましたら、ぜひご家族で一緒にチャレンジしてみてくださいね!
【食べ方編】(どれかひとつでOKです)
・ひとくちを30秒間噛んでみる
・ひとくちを右側の歯で10回➡左側の歯で10回➡最後に両方の歯で10回噛んでみる
・飲みこもうと思ってから、最後の滑り込みであと10回!
・ひとくちの量を減らしてみる
・ひとくち食べるごとに箸を置く
・飲み物は食事の最後に飲む(噛んだものを飲み物で流しこまない)
・目をつむって食べてみる。食材の味や、食感、舌の動きや飲みこむときの喉ごしなど口の中に神経を集中させて食べてみる
【環境編】
・食事中はテレビを切って、スマホや新聞を見ながらの「ながら食べ」はしない。食事にじっくり集中してみる。
・床に座りながらなど窮屈な姿勢で食べるのではなく、適切な高さの机とイスを使って、両足は床にしっかりつけて食べる
【調理編】
・柔らかかったり薄い食材だけではなく、噛み応えのある食材で調理する(根菜類・キノコ・豆・乾物・タコやイカなど)
※小さなお子さんや高齢者のいるご家庭では、噛みづらい食材にはじゅうぶん注意し、難しければ避けるようにしてください。
・食材を大きめに切る
・加熱時間を短めにして、食材の形や歯ごたえを残す
・スープやタレを少なめにする(飲み物のように、これらを利用してあまり噛んでいない食材を飲みこむことがないように)
・減塩、薄味を意識して食材本来の味を生かす
まずはどれかひとつからでも、楽しんで始めてみてくださいね!
3.まとめ
この記事を読んだあなたもぜひ、このあとの食事から「よく噛む」ことを意識してみてくださいね!
簡単に取りいれられるお口と体の健康法として「噛ミング30」をキャッチフレーズに、ご家族みんなで取り組んでみて下さい。