最近口の中が乾きやすい、食事の時にご飯が飲み込みづらくなっている、なんとなく唾液が出にくくなっているかも…
そんな症状にお悩みではありませんか?
唾液は私たちのお口の中の健康を保つうえで、とても大切な役割をはたしてくれています。ここでは、唾液が出なくなる原因をはじめ、唾液がどんなはたらきをしていて、出ないことによってどんなトラブルが起こるのか、またどうすれば唾液が出やすくなるのかをお話ししていきます。
- デンタルハイジーン 2016 Vol.36 No.8
目次
1. 唾液が出にくくなる原因として考えられるもの
唾液は食べ物を連想したり、見たり、臭いをかいだり、実際に口の中に入れて食べたり、味覚・視覚・臭覚などの刺激によって唾液腺から分泌されます。
ところで唾液はどのようにできるかご存知ですか?
唾液は毛細血管の血液から元になる間質液がまずでき、唾液腺の細胞で調整されて分泌されます。そのため、血流が少ない状態になると、唾液はつくられにくくなります。
次から、唾液が出にくくなる原因として考えられるものを上げていきます。
1-1 薬の副作用によるもの
唾液が出ない原因として、処方薬による影響が一番多く考えられます。一般的な処方薬の8割は副作用として唾液が出ないことで起こる口腔乾燥症(ドライマウス)を引き起こすことが報告されています。
口腔乾燥症を引き起こす薬の多くは、唾液の分泌を抑制する「抗コリン作用」を持っています。これによって水が腺房細胞を通過して唾液として口腔内に分泌されるのを抑制してしまいます。
降圧剤・抗てんかん薬・抗うつ薬などがあげられます。
1-2 全身疾患によるもの
唾液腺の機能が低下する全身疾患は多く存在します。
シェーグレン症候群
唾液が減少する疾患として代表的なものです。唾液腺が破壊されることによって分泌が障害されます。
糖尿病
糖尿病の症状として口渇があります。血糖値が高くなることにより体内の浸透圧のバランスを保つために細胞が多くの水分を必要とするため、口の中の渇きが強くなります。
自己免疫疾患
唾液腺に影響を与えるものとして考えられる自己免疫疾患として下記のものがあります。
●リウマチ性関節炎
●強皮症
●全身性エリテマトーデス(SLE)
1-3 唾液腺疾患によるもの
唾液腺疾患は大きく
①感染性
②非感染性
③腫瘍性
の3つに分けられます。
① 感染性
唾液腺管が細菌やウイルスに感染する
② 非感染性
唾液腺に結石(唾石)や異物などができる
③ 腫瘍性
良性腫瘍・・・多形性腺腫
悪性腫瘍・・・腺様嚢胞癌、腺房細胞癌、腺癌など
唾液がつくられ分泌される導管や腺房が閉塞される、または影響を受ける場合があり、唾液の減少につながります。
1-4 頭頚部放射線療法によるもの
頭頚部癌に対する治療として放射線治療は有効とされていますが、治療の効果と引き換えに唾液分泌に影響を与えてしまいます。
特にさらさらとした唾液を分泌する部分への影響が大きく、照射量に比例して唾液分泌に後遺症が出やすくなると報告されています。
1-5 ストレスによるもの
唾液腺は副交感神経と交感神経の2重支配を受けているため、感情や精神的な状態により、分泌量に大きな変化があります。緊張するとサラサラな唾液の分泌を止めて、ネバネバとした唾液を分泌します。
逆にリラックスした状態ではサラサラした唾液の分泌が促進されます。温泉につかっているとき、映画や音楽を楽しんでいるときなど、心がくつろいでいると口が潤うのはそのためです。
2.唾液のはたらき
唾液にはたくさんのはたらきがあり、それらによって口の中の粘膜や歯肉、歯は守られています。
① 消化作用・・・でんぷんを分解して体内に吸収しやすくする
② 浄化作用・・・唾液によって溶解された飲食物を希釈するとともに食べカスを洗い流す
③ 味覚作用・・・唾液に溶解した味物質が舌の味蕾に結合することで味覚を生じ、食欲、消化酵素の分泌、消化管運動を亢進する
④ 排泄作用・・・体内に投与された薬物、化学物質、重金属(水銀・鉛など)の血中濃度が高い場合に唾液中に排泄する
⑤ 水分代謝作用・・・体が脱水状態になった場合、浸透圧受容器からの情報伝達により、尿の生成を抑制して飲水行動を促進する
⑥ 抗菌作用・・・細菌やウイルスを殺菌、発育を防御する
⑦ 粘膜保護作用・・・粘膜を被覆して乾燥を防ぎ、化学物質や細菌の影響を緩和する
⑧ 粘膜修復作用・・・損傷した組織の傷跡を残さないように修復する
⑨ 緩衝作用・・・プラーク中の細菌が作り出す酸や食道に逆流した胃酸を中和する
⑩ 歯質保護作用・・・酸による脱灰(歯が酸によって溶ける)から歯質を保護する
⑪ 再石灰化作用・・・酸などによって脱灰した部位に、カルシウムイオンやリン酸イオンが再沈着して再石灰化させる
3.唾液が出ないことにより起こるトラブル
唾液が減少すると、先に述べた唾液のはたらきが弱くなるためさまざまなトラブルが発生してきます。
3-1 むし歯
唾液分泌の減少によりプラークや食べカスが洗い流されず停滞しやすくなり、細菌から歯質を守る力も弱まっているため、歯の表面にあるエナメル質が酸によって溶かされやがて虫歯になります。
3-2 歯肉炎・歯周炎
むし歯同様に唾液の減少によりプラークが停滞し、歯肉が炎症を起こし(歯肉炎)、それが進行すると、歯周炎となって、歯を支えている骨を溶かします。重度の歯周炎になると歯を失うことになります。
3-3 嚥下障害・入れ歯の不適合・味覚異常
歯ですり潰した食べ物を飲み込みやすい塊にするのも唾液が関与しているため、唾液がでにくいことにより、食べ物を飲み込みづらいというトラブルも出てきます。また、入れ歯を使用している場合、唾液が薄い膜になって吸着することで安定するはたらきがあるため、唾液が少ないことで、入れ歯がこすれたり、合わなくなったりします。
食事の際の味覚にも唾液は重要な役割をはたしていて、味を感じる舌の味蕾部分に唾液によって溶解した食べ物が運ばれ味覚を誘発します。よって唾液分泌が減少することで味覚障害を生じやすくなります。
4.唾液の分泌を増やす方法
唾液は唾液腺を刺激することで分泌されやすくなります。その他呼び水となる保湿剤などの食品、咀嚼して分泌を促すこともできます。
お薬の影響で唾液がでにくくなっているのであれば、主治医の先生に一度相談してみるのもよいでしょう。
4-1 唾液腺マッサージ
唾液が分泌される唾液腺部分を刺激することで唾液の分泌が促されます。
4-2 保湿剤の使用
唾液の分泌を誘発するための保湿剤の使用も有効です。保湿剤にはスプレータイプやジェルタイプがあり、味も色々選べるものが多いです。酸味や甘みで唾液の分泌を促すことができます。ご自身の好みの味を探して、使用してみて下さい。
ウエットケア レモン 50ml
キッセイ薬品工業株式会社 amazon
外出先でもサッと使用できるスプレータイプ。
ノンシュガーでキシリトールとヒアルロン酸配合のさわやかな酸味タイプのスプレー飲料。
天然アミノ酸系保湿成分配合の粘稠性が高いジェルタイプ。
アップルとパイナップル2種類のフレーバー。
唾液が減少する就寝中のお口の中の潤い保持や、お口の中にこびりついている汚れをやわらかくして落す際にも使用できます。
4-3 シュガーレスガム
食べ物を咬む(顎を使う)ことで唾液の分泌が促進されます。よってガムを噛むことは有効ですが、砂糖が入っているものだとむし歯リスクが高まり逆効果です。ガムはシュガーレスのものを選びましょう。
キシリトールやカルシウム配合のガムだと、唾液分泌促進と合わせて、歯質を強化して丈夫な歯をつくる手助けもしてくれるので、一石二鳥です。
POs-CaF(ポスカ・エフ)
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ペパーミント、マスカット、ストロベリーの3種類。
4-4 リラックスできる環境をつくる
唾液がでない原因でお話したように、唾液分泌は精神状態や感情で左右されます。
自分の好きな趣味に興じているときや心や体がリラックスしている環境下では、サラサラとしだ唾液の分泌が促されます。マッサージや咬むことによって唾液の分泌を増やすと同時に、心と体をゆっくり休める時間・環境をつくることも唾液分泌を促すことにつながります。
5.まとめ
唾液は私たちの体、特に口腔内でとても大切なはたらきをしており、減少することで色々なトラブルが起こります。唾液が出にくくなってきたかも?と感じる場合には、ご紹介した唾液分泌を促す方法を試してみてください。