つらい型どりをしたり気持ち悪いワックスをかんで、一生懸命歯医者に通って作った入れ歯…。やっと完成してこれで物がおいしく食べることができる!
と思ったら、
痛くてかめない!!
これじゃあ入れ歯を作った意味がないじゃないか!
そんなつらい症状のかたに、どうして痛くなってしまうのか、どうやって治していくのか説明をしていきたいと思います
目次
1.入れ歯が痛くなる理由
入れ歯ってかたいですよね。そしてお口の粘膜ってやわらかいですよね
つまり、入れ歯はやわらかい場所にかたい異物を入れて使用するものなので、使用してすぐに快適に使えるものではないのです。
身近なもので例えてみましょう…
スニーカーみたいにやわらかい靴は新品でも痛みなく履くことができますが、新品の革靴はかかとや親指の付け根が痛くなったりしないでしょうか?痛いを通りこして皮がめくれて血がでることもありますよね…
入れ歯とお口の関係は、新品の革靴と足の関係に似ています
↑柔らかい足+硬い革靴=傷
しかし、革靴のばあいは皮が動く(柔らかくなる)ので時間が経てば自分の足になじんできます。一方入れ歯は動かない(プラスチックと金属のかたまり)なので、我慢すれば口の粘膜が義歯になじむというわけではありませんね…
だから、入れ歯が合わないときは、面倒だと思いますが歯医者に行ってもらって専用の道具で入れ歯の形をかえないと、入れ歯を快適に使えないのです
1-1.かみ合わせが高い
入れ歯は均等に噛んでいないと、かみ合わせが強いところに負担がかかってしまい、痛みが出てくることがあります。
また、ものを食べるときに顎は横にも動くので、かみ合わせが適正でないときは横揺れ(推進現象)が起こって痛みがでることもあります。
1-2.噛むと入れ歯が粘膜に押し付けられる
これは1-1.と関連しているのですが、新しい入れ歯でいきなり硬いものを食べようとすると、入れ歯が粘膜に押し付けられて痛みがでることがあります。
使いなれた入れ歯なら硬いものを食べても平気かもしれませんが、新しい入れ歯のばあいは最初はやわらかいものから召し上がったほうが安全です
上の入れ歯を見ると、写真の右側は金属の金具(クラスプ)が2つありますが、左には1つしかありません。左側のほうを遊離端(ゆうりたん)といいます。
遊離端のほうで硬いものをかむと入れ歯が歯ぐきに押しけられ痛みがでます。これを「入れ歯が沈む」と言います。
こちらの入れ歯は、入れ歯の両サイドに歯が残っているので入れ歯が沈みません。このタイプの入れ歯の人は遊離端義歯ではないので、痛みが出にくくなります
1-3.入れ歯を支えている歯が弱っている
部分入れ歯は、残っている自分の歯にクラスプをかけて使用します。
金具をかける歯が歯周病で弱っていたり虫歯で歯の量が少ないと、入れ歯を支えることができず痛みがでることがあります。
↑歯周病になると歯を支える骨が下がってしまう。歯に入れ歯を支える力がないので、歯や粘膜に痛みが出る
1-4.入れ歯の辺縁が長い
入れ歯は、ピンクの部分(義歯床/ぎししょう)が大きいほうが、入れ歯を支える面積が広くなるので物理的に安定します。しかし義歯床が長くなると、唇や頬や舌などの動く部分とこすれてしまい傷ができやすくなります。
新しい入れ歯の義歯床は大きめに作られていることが多いので、使ってみると入れ歯と粘膜が擦れてしまい傷ができることが多くなります
↑義歯の下の歯ぐきがはれている
↑義歯をとると明らかに傷になっている。義歯の辺縁を削るなどして調整する
1-5.歯ぐきが弱っている
抜歯した後に入れ歯をつくった
抜歯してから入れ歯を作ったときなどは、抜歯をした部分の歯ぐきが弱っています。義歯床と歯を抜いたところの歯ぐきがあたると痛みがでます。
↑歯を抜いた直後は歯ぐきがブヨブヨしてしまう
歯周病が酷い
歯周病で歯ぐきが腫れていると、歯にかけているクラスプがあたったり、粘膜に入れ歯を支える力がないので、痛みがでることがあります。
↑歯周病が酷いと歯ぐきが弱ってしまう
フラビーガムができた
総入れ歯の患者さんは、上の前歯があった歯ぐききがぶよぶよと柔らかくなってしまっている人がいます。これをフラビーガムと言います。
そういった人も、入れ歯を入れるとやわらかい歯ぐきが痛くなることがあります
↑緑の〇の部分にフラビーガムができやすい。入れ歯の前歯でかむ癖がある人にできやすいので、奥歯で噛むように注意する
2.治療法
これから歯医者で行う入れ歯の調整法について説明します
2-1.削って調整してもらう
かみ合わせが高かったり義歯床が長かったりすれば、そこの部分を削ります。そして、家で1度使用してもらい、傷ができてしまった歯ぐきが治るのを待ちます。
それでもまったく痛みが改善しないときは、また調整に来てもらい原因を探ります。
2-2.粘膜に触れる面を調整する
新しい入れ歯なのに、粘膜と入れ歯が接する部分が合っていないことがあります。
そういうときは入れ歯の内側を、硬い材料で作り直したり、柔らかい材料で傷の治りを促したりします
↑粘膜に触れる面とは、入れ歯の裏側のこと
ここで言う柔らかい材料は、身近なもので言うポリデントのようなもので、粘膜調整剤といいます。
粘膜調整剤を入れると入れ歯が快適に使えることが多く、患者さんんが「これで大丈夫だ♪」と思い通院しなくなることがあります。
医院によっては治療が終了したとみなす事もありますが、粘膜調整剤で傷が治ったあとに硬い材料を入れなおす医院もあります。
なので、担当医が「入れ歯の調整は終了した」とハッキリ言わないかぎりは、自己判断で通院をやめるのは避けたほうが良いでしょう
2-3.設計を見直してもらう
入れ歯には、理想の入れ歯の形というものがあります。それを学術的に追い求めるとするのならば
- 歯周病が酷い歯は全部抜歯してから作る
- 骨がとんがってて入れ歯とあたると予測できる部分は、外科処置で骨を滑らかに削ってから作る
- フラビーガムは外科的に切除してから作る
- 歯の支持があったほうが物理的に安定するから、左右の歯に金具をかけるようにする
などなど、色々な処置をすることになります
しかし、この条件を網羅しようとすると、入れ歯を作るのに患者さんの負担が増してしまうので全部やることはあまりありません。
理想の入れ歯のためなら、なんでやらないの?
と思われる方がいるかと思いますが、現場で”理想”を追い求めると
- 「歯周病が酷いので、15本近く抜きますね」
- 「骨が吸収してるので次回は1~2時間かけて歯ぐきのオペをしますね」
- 「異物感が嫌ということですが、それだと安定しないので左右に金具をつけて大きな入れ歯を作ります」
と患者さんに言うことになるのです。。。
こういったことを歯科医師に言われて「理想の入れ歯のためにやります!」となる人は、ほとんどいません…、大体のかたはビックリしてしまいますよね…(あたりまえだと思います)
だから、”学術的な理想”と”患者さんの希望”をすり合わせた義歯の設計をします。そうすると理想の入れ歯からずれていくので、入れ歯の不都合が出やすくなってしまうのです。
だから
異物感がいやで小さい入れ歯にしたけど、動いて使えないのなら、異物感を患者さんに我慢してもらって大きな入れ歯にしてもらったり、
クラスプがかかっている歯が動いて痛みが治らないのなら、患者さんに弱った歯をあきらめてもらって抜歯して入れ歯を安定させたりして、
入れ歯の形(設計)を変えることがあります。
3.まとめ
入れ歯が完成さえすればそれでおしまい!と思ってる人もいらっしゃるかと思いますが、実はそうではありません。入れ歯は完成して、調整して、やっと使えるようになるのです。
硬い革靴を足になじませるようなものなのか…と思ってもらって、歯医者に通っていただければ幸いです
歯学生のパーシャルデンチャー 第4版 三谷春保 他 医歯薬出版