骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という骨の病気があります
今は医学の進歩によって効果的な薬が世に出回っています
しかし、その薬が思いもよらない副作用があり、歯科ではそのお薬を飲んでいる方には注意が必要とされています
病気とうまく付き合っていくためにも、薬の効果と、薬によるトラブル、そして予防法などを知っておきましょう
目次
1.骨粗鬆症について
そもそも、骨粗鬆症とはどういう病気なのか…まずはそこから説明します
骨粗鬆症とは骨量の減少と骨組織の異常の結果、骨に脆弱性(もろくて弱くなること)が生じ、骨折をしやすくなる病気のことを言います
骨粗鬆症の患者さんは年々増え、約1000万人を突破しているといわれています。以前は単なる加齢現象ととらえられていました。
1-1.骨粗鬆症は2つ分類される
骨粗鬆症には
- 原発性骨粗鬆症
- 続発性骨粗鬆症
の2つに分類されます
原発性骨粗鬆症は主として
閉経後の女性にみられる閉経後骨粗鬆症と、
65歳以上の高齢者にみられる老人性骨粗鬆症があり、
これらが全体の約90%を占めています
一方、続発性骨粗鬆症は、
内分泌疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、先天性疾患、薬物性、ステロイド投与が原因として発症します
女の人のほうが骨粗鬆症になりやすいので、とくに女性はカルシウムの摂取をこころがけたほうが安心ですね
1-2.骨粗鬆症の症状
骨量の低下のみでは症状はありません。骨折することによって、疼痛や変形が出現します
- 股関節の骨折(大腿骨頸部骨折)
- 手首の骨折(撓骨遠位端骨折)
- 脊椎圧迫骨折
などの症状があります
脊椎椎体圧迫骨折では、あとから下肢の運動・知覚麻痺や排尿・排便障害が現れることがあるので注意が必要です。また、頑固な腰背部痛が残ることもあります
2.骨粗鬆症の薬(BP製剤)とは骨を壊す細胞の働きを抑える
上で説明したように、骨粗鬆症は骨がもろくなる病気になります。
この病気の薬―ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)-は、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑え、骨が吸収を抑えます。
こういった働きにより、骨量が増え、骨折予防が期待でき、骨粗鬆症の治療薬として利用されるようになりました
2-1.BP製剤が治療薬に使われる病気
BP製剤は骨粗鬆症の治療薬以外でも使用されます
- 乳癌骨転移患者の骨関連事象の予防
- 癌による高カルシウム血症
- 固形癌骨転移による骨病変
- 多発性骨髄腫による骨病変
- 骨ページェット病
- 小児骨形成不全
こういった病気、つまり、癌の患者さんや、骨の代謝異常疾患の患者さんの治療に、必要不可欠な薬として処方されています
注射用のものと経口のものがあり、国内においては骨粗鬆症の患者さんは経口のもの、癌の患者さんは注射用のものが使用されています
3.BP製剤で起こる歯科の病気~BRONJ~
さて、本題ですが、歯科ではこのBP製剤を使用しているかたに外科的な処置をすると、顎骨壊死(BRONJ)がおこることがあります
↑乳がん骨転移のためにBP製剤処方。抜歯はしていない。骨が出てきて知覚麻痺がおこっている。皮膚にも膿の通路ができた。上顎洞炎も発症
↑骨粗鬆症の患者さん。抜歯はしていない。上の骨が出てきてしまっている。痛みもある。上顎洞炎も発症
3-1.BRONJの症状
- 持続的な骨露出
- 顎が重い感じ
- 鈍痛
- 顎のしびれ
- うずき
- 「歯痛」に似た痛み
- 軟組織の感染
- 歯の動揺
などの症状がおこります
3-2.まだ原因は解明されていない
残念なことに、どうして骨が壊死してしまうのか、原因がはっきりと分かっていません
3-3.BRONJのきっかけになる歯科治療
顎の骨を損傷する処置をすると、BRONJが発症することがあります
- 抜歯
- インプラントの埋入
- 根尖外科手術(歯の根っこの外科処置)
- 骨への侵襲を伴う歯周外科処置
といった外科的な処置はもちろん、
- 入れ歯でできた粘膜の傷
- 歯肉の深いところの歯石取り(歯肉縁下SRP)
などでも発症することがあります。
3-4.正確に把握されていない発症頻度
国内における発生頻度は明らかにされていません。
しかし、症例数は報告されており、
日本口腔外科学会が実施した2006∼2008年の全国調査では263例
2011∼2013年の調査では4,797例のBRONJが報告されています
米国口腔外科学会では累積発現頻度は「0.8~12%」と推定されています。
しかし、追跡調査を延長すると、この数字は伸びていくと考えられています
なんにしても、はっきりと数字が出ておらず、潜在患者が多いのではないかと考えられます
4.BRONJの治療方針
BRONJに対する有効な治療法はまだ確立されていません
4-1.潜在リスクがある人
BP製剤を服用しているけどBRONJを発症していない人があてはまります
発症をしていないので、特に治療をする必要はありません
患者さん自身がBRONJの発症リスクが高いことを理解していただき、発症しないように口腔衛生に努めるようにしていただきます
4-2.ステージ1
骨露出が骨壊死をしているけれど感染をしていない人があてはまります
年4回ほどの歯科検診に通ってもらい、お口の中をキレイに保ってもらいます
含嗽剤の日常的な使用が望ましいとされています
4-3.ステージ2
骨露出、骨壊死に加え、感染・発赤がおこっている人があてはまります
含嗽に加え、抗生物質の服用をしてもらいます。また痛みもあるので鎮痛もします。
また、表層の組織の炎症したところを除去する、デブリードマンということをします
4-4.ステージ3
ステージ2にくわえ、病的骨折、外歯瘻(膿の通路が皮膚にできる)・下顎下縁(下顎の下のところ)にいたる骨吸収と破壊(下顎骨の大規模な破壊)がおこっている人があてはまります
含嗽、抗生物質の投与のほかに、外科的に骨を切除するといった処置をすることになります
このステージのかたは、日常生活に支障をきたすレベルの痛みがおこっているので、鎮痛も行います。
5.BRONJの予防法
なるべくBRONJの発症リスクを下げるためには、顎の骨に侵襲する歯科治療をしないことです。
つまり、定期的な口腔内検査・口腔ケアをして、毎日ご自分で歯磨きをすることによって、ひどい歯周病などにならないように気を付けることが重要となります。
また、入れ歯が合っていないことによっておこる粘膜の傷からもBRONJがおこることがあるので、定期的に入れ歯のチェックに歯医者に行ったほうが安心です
入れ歯が合わないことによる傷ができたら、放っておかないで、歯医者に行って入れ歯の調整をしたほうが良いでしょう
6.BP製剤を使用している人が歯医者を受ける場合
BP製剤を使用している人は、まず、治療を受ける前に歯科医師に伝えましょう。そして、歯科と医科の綿密な連携が必要になるので、橋渡し役として医科の先生にも歯科治療を受けることを伝えましょう
6-1.注射用BP製剤のばあい
注射用BP製剤を使用している人は、原則として休薬をせず、骨に及ぶような処置をしないことになっています
投与をする予定が分かっているときは、投与の前に歯の治療をすべて治すことを医科から依頼されることもあります。できれば粘膜形成が完了するか(14~21日)、骨が十分に治癒するまでBP製剤の投与を延期するのが望ましいとされています
全身状態から、休薬のリスクが高くない患者では、注射用BP製剤による治療の中止を検討することもあります
なんにしても、すべての症例で、歯科医・歯科口腔外科医と治療にあたる医科の緊密な連携が必要とされています。
6-2.経口用BP製剤のばあい
経口用BP製剤は、注射用のBP製剤よりもBRONJの発症が低いとされています。
ここで重要なのが、投与が3年未満か以上か、リスクファクターの有無です
BRONJのリスクファクター
- コルチコステロイド療法
- 糖尿病
- 喫煙
- 口腔衛生の不良
- 化学療法
- 高齢者
- 肥満
- 骨パジェット病
- 歯周炎
- 骨隆起
- 外骨症
投与3年未満・リスクファクター(-)の人
原則として、休薬をする必要はなく、侵襲的な歯科治療は可能とされています
投与3年未満・リスクファクター(+)の人
患者の全身状態から投与中止しても差し支えないのであれば、歯科処置前の少なくとも3ヵ月間は経口BP製剤の投与を中止し、処置部位の骨が治癒傾向を認めるまでは再開はすべきではないとされています
投与3年以上の人
患者の全身状態から投与中止しても差し支えないのであれば、歯科処置前の少なくとも3ヵ月間は経口BP製剤の投与を中止し、処置部位の骨が治癒傾向を認めるまでは再開はすべきではないとされています
7.まとめ
BRONJは原因もよく分からないし、確立した治療法もよく分からない病気です
そのため、病気のことをよく理解し、発症リスクがある人は予防に努めましょう。
発症していない人は、お口の中をキレイにするということが重要なので、歯医者に行って口腔衛生状態の向上を目指しましょう
発症をしてしまった人は、BRONJが悪化しないように医科と歯科の先生の連携のもと、治療を続けていきましょう