平成30年度診療報酬改定(保険点数の改定)で、歯科の外来診療における院内感染防止対策の推進として、施設基準が新設されました。
届出が必要な施設基準の主な内容として、院内感染防止策に係る研修を受けた常勤の歯科医師が1名以上配置されていることや歯科医院の滅菌設備や滅菌体制、一日の外来患者数に対して必要な器材を保有しているか等があります。院内感染を防ぐためには、その施設に従事するスタッフすべてが感染対策について理解している必要があります。以前より当法人では歯科感染対策に関するセミナーを複数のスタッフが受講しており、受講内容等を法人内で共有してきました。この度私は、「日本・アジア口腔保健支援機構」主催の第一種歯科感染管理者検定を受講し、歯科医院における院内感染対策マニュアルの作成について学び、課題の感染防御マニュアルを提出し合格いたしました。
今回は、これから歯科感染管理者検定受講を予定されている方、またはご自身の勤務する歯科医院に感染対策マニュアルがない方に、マニュアル作成に必要な内容を参考までにお話しさせていただきます。
医療従事者に限らず、今現在新型コロナウイルスで歯科受診を不安に感じている患者さんにも、歯科医院ではこのようなマニュアルに沿って院内感染防止に努めていることを知っていただき、少しでも不安を払拭できればと思っております。
1.感染対策マニュアルについて
感染防止マニュアルは、歯科医師会や歯科材料業者が作成したものではなく、その歯科医院の設備や設置器材等に沿ったものを作成し、スタッフ全員に周知すること。また、定期的にマニュアルの内容を見直しし、随時改訂していくこととされています。医院にマニュアルを設置するだけではなく、勤務する全スタッフを対象に随時研修を行うことも必須とされています。
2.感染対策マニュアルの構成
感染対策マニュアルに必要な内容の骨組みは以下の通りです。
- 歯科医院としての指針
- 感染対策マニュアルに関する基本的な考え方
- 感染対策マニュアル
スタッフの中には、初めて歯科医院に勤務する者もいるので、標準予防策や個人防護具の使用についてなど、医療従事者には当たり前とされる情報も細かく記載していく必要があります。
マニュアルは、図や写真などを多用して、誰にでも分かりやすく作成します。
次からマニュアルの内容を細かく説明していきます。
2-1 感染管理指針
感染対策に関する基本的な考え方や、歯科医院での感染管理体制、スタッフ研修や院内感染発生時の対応等を記載していきます。研修を行うことで感染対策の基本的考え方や最新情報、マニュアルについてスタッフへ周知します。就業開始時はもちろんですが、全スタッフを対象に外部研修を含め年に2回開催します。〇月〇日に〇〇の研修を行った等、研修実績を記録・保存します。研修後にテストを行えば周知状況を確認することもできます。
院内にマニュアルを設置していることは待合室等に掲示し、患者さんにも理解を得た上に協力を得るようにします。感染対策に関する情報は、厚生労働省や国立感染症研究所、日本感染症学会などから最新の情報を入手します。
2-2 感染対策マニュアル
感染対策マニュアルはガイドラインや医療法など、最新の科学的根拠に基づき実践可能な内容を作成し、随時改訂および更新を行います。標準予防策、感染経路別予防策、感染症別対策、医療廃棄物の取り扱い、職業感染対策、器材の洗浄・消毒・滅菌などを盛り込んでいきます。
2-2-1 個人防護具の使用について
グローブやマスク、ゴーグルなどの個人防護具の使用は、医療従事者にとっては当たり前のことだとしても、はじめて医療機関に勤務するスタッフにとっては常識ではないことを踏まえて、細かく記載していきます。
ここでは具体的に図などを使用して分かりやすくします。
画像:メディコムジャパンHPより
2-2-2 手指衛生について
手指衛生に関しても手指消毒、手洗い(手洗いミスの多い部位含む)など、図を使用します。
目に見える汚れがない場合は、擦式消毒用アルコール製剤で手指消毒を行い、手指に目に見える汚れが付着している場合は流水と石けんによる手洗いを行います。
画像:サラヤ株式会社HPより
手洗いミスの多い部位も表記して周知していきます。
画像:メディコムジャパンHPより
2-2-3 感染経路別予防策について
接触感染・飛沫感染・空気感染について表記し、それぞれの対応策を記載していきます。
新型コロナウイルスは汚染された手指や器具により感染する接触感染、微生物を含む飛沫を吸入することで感染する飛沫感染の両方に含まれます。
|
感染媒体 |
主な微生物 |
対策例 |
接触感染 |
汚染された手指や器具により感染する |
多剤耐性菌(MRSA・VREPRSP・CREなど)、O-157、赤痢菌、ノロウイルス、ウイルス性出血性結膜炎、ヒゼンダニなど |
・標準予防策 ・手指衛生と手袋 ・清掃 |
飛沫感染 |
微生物を含む飛沫を吸入することで感染する(5㎛以上の粒子1-2m以内)飛沫は床に落ちる |
インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、髄膜炎菌、ジフテリア菌、溶連菌、マイコプラズマ、アデノウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、インフルエンザ菌など |
・標準予防策 ・サージカルマスク ・手指衛生と手袋 ・清掃 |
空気感染 |
空気中を浮遊している5㎛以下の飛沫粒子を吸入することで感染する |
結核菌、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなど |
・標準予防策 ・N95マスク ・陰圧個室 |
2-2-4 職業感染対策について
医療現場における使用器材による針刺しや切創事故の対応策について記載します。切創事故防止としては、スケーラーやバー類、リーマーなど鋭利な器具の取り扱い時の注意事項や針刺しや切創事故が起きてしまった場合のフローチャート等を盛り込んでいきます。
事故の防止策としては、
- ユニットからハンドピースを取り外す前にバーを取り外す
- 鋭利な器材は先端の向きをそろえて回収する
- 注射針のリキャップは片手リキャップ法や両手で行う際の「への字」持ち手技の徹底
等があげられます。
2-2-5 スタッフの健康管理について
年1回スタッフ全員を対象とした労働安全衛生法で義務付けられている健康診断を行うこととする。
新規採用者については採用時に健康診断を実施します。
インフルエンザやB型肝炎等のワクチン接種に関しては、スタッフの自主性に任せず、積極的に推奨していくようにします。
2-2-6 器材の洗浄・消毒・滅菌について
器材の使用目的に応じて処理を行い、使用された患者の疾患によって処理するのではなく、すべての使用済器材は標準予防策に基づいて取り扱いをします。
医院消毒コーナーに設置してある設備に応じ、どのようなルートで処理を進めるのか明確に表示していきます。
また、診療室に置いて、清潔域、不潔域を示し、使用器材と洗浄・消毒・滅菌済器材の動線を明確に表示します。
2-2-7 環境整備と診療時の感染対策について
日常の清掃をスムーズに行うためには、治療エリアなどにあまり使用しない不要な装置や備品を配置しないようにします。
2-2-8 廃棄物の処理について
感染性廃棄物の取り扱い、処理方法について記載します。感染性廃棄物はバイオハザードマークを貼付した専用容器を配置します。
3.感染症別対応マニュアル
肝炎ウイルス、HIV、多剤耐性菌、インフルエンザ、消化管感染症(ノロウイルスなど)、流行性ウイルス疾患(はしか、風疹、水疱瘡、おたふく)などの基礎知識および感染経路、感染対策等について、お子さんがいるスタッフは流行性ウイルス疾患については詳しいかと思いますが、その他の疾患もスタッフ全員で共有するよう、記載しておきます。
4.マニュアル作成の注意事項
マニュアルには表紙に目次を作成し、添付資料として医院のレイアウト図を作成します。
レイアウト図は器材の洗浄・消毒・滅菌について記載した章で紹介したように、動線の記載や感染廃棄物の容器等を表示します。
今回の検定で1回目の審査では、目次を作成していなかったことと、レイアウト図の添付がなかったことで、不合格になり、再度マニュアルを作成して提出し、合格となりました(;’∀’)
5.まとめ
感染対策に限らず、医院の決まり事などは口頭での説明だけでは全員に正しく周知、理解してもらうことは困難です。マニュアルを作成することでスタッフ全員が共通した知識を得ることができます。
感染対策マニュアルがまだない歯科医院は、今後の作成の参考にしていただければ幸いです。今後も引き続きセミナー等を受講して、新しい情報を随時マニュアルにアップデートしていきたいと思います。