歯医者さんには異なる職種の人がそれぞれの仕事を分担しています。
まずは無くてはならない歯科医師、治療の準備や治療中のアシスタントを行う歯科助手、義歯や歯の詰め物を作ったり修理などを行う歯科技工士、歯科医院の顔ともいえる受付、そして歯科医師をサポートしたり、虫歯や歯周病などの予防処置や歯の健康指導を行ったりする歯科衛生士。
歯科衛生士の重要な仕事の一つが、歯石を取ったりブラッシング指導をしたりすることです。
たくさんの患者さんと向き合い、さまざまな会話の中からその人にあった歯ブラシや歯磨きの方法をお話します。
その会話の中で「うーん。それ違うんだけどなー」という話が、実はたくさんあります。
今回はそんなお話です。
1.患者さんが間違えて覚えている歯磨きの『常識』
皆さんは「歯磨き」を何年していますか?
幼稚園、小学生の頃からウン十年。正しい磨き方は何となくわかっているけど、自分の磨き方は「これ!」なんて決めていませんか?
長い年月を自己流の歯磨きをするうちに、様々な「思い込み」も持ってしまうようです。
1-1 「自分の歯は強いから磨かなくても虫歯にならないわ」
確かに、歯をあまり磨かなくても虫歯になりにくい人がいます。
でもそれは数々の偶然が重なって起こる、極めて運の良い結果です。
例えば間食や甘い物を食べることが少なかったり、唾液の分泌が多く口の中の汚れが知らない間に洗い流されていたり、虫歯菌と言われるミュータンス菌が少なかったり。
虫歯にならなかったのは「たまたま」で、歯を磨かなくてもいい…というわけでは決してありません。
1-2 「かぶせ物にしたら二度と虫歯にならないでしょ?」
虫歯が大きい場合の治療に、歯を削って金属のかぶせ物をする治療があります。
1本だけのかぶせ物や、数本繋げてある「ブリッジ」。
素材もパラジウムから金、プラスチック、セラミックなど様々です。
そういったかぶせ物は虫歯菌で穴が開くことはありません。ただし、かぶせ物の中は削った自分の歯を土台にしている場合があり、歯と歯肉の間を良く磨かないと、かぶせ物の中で虫歯が進行してしまいます。
しかも神経を取る治療をしている場合が多く痛みがないので気が付いた時には中の歯がボロボロ!なんてことになりかねません。
歯を再生することが出来ないほど虫歯が進行してしまうと、最悪の場合抜歯をすることになってしまいます。
大切なのはかぶせ物の中の自分の歯。良く磨かないと恐ろしい結果が待っているのです。
1-3 「高価な歯磨き粉を使っているから、大丈夫!」
歯磨き粉の価格は数百円~数千円。成分や目的によって変わります。
虫歯を予防したいのか、歯周病の進行を防ぎたいのか、口臭をなくしたいのか、知覚過敏に効果のあるものがいいのか、フッ素で歯を強くしたいのか。味にこだわりたいのか。
目的や予算によってお好みの歯磨き粉を選んでいただいて良いと思いますが、歯磨き粉はあくまで補助的なもの。
歯を磨くことにおいて大切なのはプラーク(歯垢)がどれだけ落とせているか。です。
1-4 右側(左側)の片方でしか噛まないから反対側の歯は汚れていない
虫歯や歯周病で歯が無くなってしまったり、片側の歯ばかり使ってしまう「噛みぐせ」があったり。
そうすると使っている側の歯しか磨かない方がいます。
使わなければきれいなまま汚れない。
これは間違いです。
プラークを作る細菌は口の中全体にいるので、歯を使っても使わなくても同じように細菌は繁殖します。
食べ物を噛む事で自然に汚れが取れることがない分、使わない歯は汚れたままなのです。
1-5 ゴシゴシ強く磨かないと歯はきれいにならない
硬い歯ブラシでシャカシャカ音が聞こえるくらい磨かないと、磨いた感じがしない…と言うかたも多くいらっしゃいます。
ちょっとわかる気もしますが、この磨き方を続ければ続けるほどダメージが大きく、歯の表面が削れて、歯肉が退縮して根の部分が出てしみて痛みが出てくる知覚過敏をおこすようになります。
力の入れすぎにいいことはありません。
1-6 「毎回3分間もかけて磨いているから問題ない!」
歯磨きは「3分」磨けば合格!というわけではありません。
鏡を見ながら汚れを取ることだけに集中して歯を磨いたとしたら、かなりの時間がかかるはずです。
何分磨いたかが大事なのではなく、丁寧に磨いたら何分かかった。という方が重要です。
「3分」は「最低3分」くらいに思っていてほしいですね。
1-7 自分の歯磨きは昔も今も「ローリング法」
かなり昔の話ですが、歯ブラシのCMでブラシを下から上にクルッと回転させる「ローリング法」がさかんに放映されていたのを覚えている方も多いと思います。
ローリング法はれっきとした歯磨き法でそこに問題はありません。
ただ、歯科衛生士はブラッシング指導をする時、患者さんの年齢、歯並び、歯肉の腫れ、歯周病の進行度、生活習慣など、会話の中やお口の中の状態などから患者さんに合った磨き方をお話し指導します。
場合によっては、ローリング法以外の歯磨き法をお伝えすることがあります。
習慣になった磨き方を変えることは簡単なことではないのは承知の上で、患者さんのことを想ってお話しています。
ぜひ衛生士に教わった磨き方でチャレンジしていただきたいと思っています。
2.これが正解!歯科衛生士に褒められる歯磨き法8つのポイント
ブラッシング指導の際私たちの話を熱心に聞いて、次の定期検診の時に「あれから頑張って磨いていました」と報告してくださる患者さんがいます。
歯周ポケットの検査や、プラークの残り方に改善が見られ、お口の中の状態が良くなっていたら、とてもうれしいですね。
逆に「こんなに汚れが残っていますよ、ちゃんと磨いていましたか?」なんて言われたらガッカリしてしまいます。
歯が今よりも健康になって、かつ歯科衛生士にも褒められちゃう磨き方をマスターしましょう!
2-1 歯ブラシのヘッドは小さく軟らかい物が◎
歯ブラシの種類は本当にたくさんあって、どれを選んだらよいのか迷ってしまいます。
ヘッドの形、大きさ、素材、柄の形、長さ、角度などなど…。
オススメは奥歯までしっかり入るようにヘッドが小さく、柄は真っすぐなもの。
硬さは、年齢が若く歯肉に問題がなく健康なら「ふつう」。
成人で歯周病対策を考えるなら、歯と歯肉を傷付けない軟らかい物がおすすめです。
《おすすめの歯ブラシ》
●「GCルシェロB20S ピセラ」…萌出途中の奥歯まで届き10代の方向き。
●オーラルケア「タフト24 SS」…プラークをしっかり掻き出すコシ。歯肉を傷つけない。
2-2 歯ブラシの毛先をしっかり歯に当てる
どんなに良い歯ブラシを使っていても、毛先が汚れに当たっていなくては、その汚れは取れません。
隣の歯との高さの違いがあると隙間ができてしまいますし、歯が重なっていて斜めになっていたら毛先は当たりません。
自分の歯並びに合わせて歯ブラシをしっかり向けることが大切です。
また、歯と歯肉の境目も毛先が当たらないポイントです。毛先がきちんと歯に当っているかは、鏡を見ながら注意深く観察することも大切です。
①でこぼこの歯並び
歯ブラシを縦にあてて歯の1本ずつ毛先を上下に動かします。
②背の低い歯の磨き方
頬の力を抜いて、歯ブラシを斜め横から入れて、細かく動かします。
③歯と歯肉の境目
歯肉に対しては45度の角度に毛先をあててハブラシを5mm幅程度で動かしましょう。
2-3 力を抜いて優しく磨く
歯ブラシをギュっと握ってしまうと、どうしても力が入ってしまい、歯と歯肉に負担がかかってしまいます。歯ブラシは鉛筆を持つように優しく持ち、手首の力を抜いて優しく磨きます。
★歯ブラシの毛先が広がらない程度の優しい力で。
2-4 歯は1~2本ずつ磨く
一度に多くの歯を磨こうとすると歯ブラシの動きも大きくなり、1本の歯に対して歯ブラシを毛先が当たる回数は、ほんの数回です。
プラークはバイオフィルムという膜で覆われていて、丁寧に歯ブラシを当てないと取り除けません。歯ブラシを歯に当て、当たった1~2本に対して歯ブラシの毛先を小刻みに20回前後動かします。
終わったら歯ブラシを隣に移動して、また小刻みに磨く…それを繰り返していきます。
画像:すべてライオン公式HP
2-5 就寝前はとくに時間をかけてゆっくり丁寧に
力を抜いて、1~2本ずつ磨くなんて、どれだけ時間かかるんだろう。そう思いますよね。
実際時間がかかります。
「朝の忙しいときにそんな暇はないわ!」それも当然ですね。1日に何回も磨いてもそれが雑な磨き方になってしまうなら、1日に1回でも丁寧に磨く方が良いのです。
そしてその1回は夕食後、就寝前の歯磨きが最適です。
寝ている間にお口の中の細菌は増殖します。
就寝前の歯磨きで細菌の数を減らすことは、虫歯予防、歯周病予防にとって大切です。
ふつうの歯磨きをしたあとに洗口剤での口ゆすぎをプラスするのもより効果的でおススメです。
《おすすめの洗口剤》
●ウェルテック「コンクールF」・・・殺菌効果が高くノンアルコールでピリピリしません。
画像:ウェルテック公式HP
2-6 噛み合わせの面も忘れずに磨く
磨き始めの場所や、順番など「磨きグセ」は誰にでもありますが、無意識に歯ブラシを動かしてしまうと、歯ブラシが当たっていない場所は、いつも同じだったりします。
それを防止するためには、やはり意識をしながら磨いていくしかありません。
意外と忘れがちなのは噛み合わせの面。奥歯は溝が深いのでプラークが残ってしまいます。
《プラークの残りやすいところ》
画像:ライオン公式HP
2-7 歯磨き粉は付けすぎない
歯磨き粉にはミントや柑橘系の爽やかな味が付けてあって、発泡剤が泡立ちます。
磨けていなくてもそれだけでさっぱりするので「磨いた感」がしてしまいます。
また、研磨剤が含まれている歯磨き粉を付けすぎると、歯の表面に傷がついてしまいます。
歯磨き粉は歯ブラシの毛先に少しだけ。
《おすすめの歯磨き粉》
●デント「チェックアップ スタンダード」・・・フッ素の含有量が多く、低研磨性で安心
2-8 歯磨き補助グッズを使っている
歯と歯の間や歯と歯肉の間にあるプラークや食べかすを歯ブラシだけで取り除くのは、実はとても難しいです。
手間は増えますが、簡単で確実に汚れを取るならば、必要な補助グッズを使う事が、結果的に時間短縮になります。
歯磨き補助グッズというと、どんなものがあるかご存知ですか?
①歯間ブラシ
歯と歯の間の汚れをとる小さなブラシで、入れたら真ん中だけで動かすのではなく、歯の間の左右、上下の側面を清掃します。
慣れたら表と裏の両側から入れましょう。
おすすめは4Sくらいの細い歯間ブラシです。
画像:ライオン公式HP
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②デンタルフロス、スーパーフロス
歯間ブラシが入らない狭い歯と歯の間や、繊維性の食べ物が挟まってしまった時にはフロスの使用が断然おススメです。
スーパーフロスは両側が硬くなっていてブリッジの下やインプラントの根元の周りを清掃する特殊なフロスです。
●デンタルフロス
●スーパーフロス
③タフトブラシ
小さく細い毛先は尖っているので、歯と歯肉の間や狭い隙間の汚れや、でこぼこした歯の凹凸にピンポイントで当たります。くるくる動かすことで汚れを吸い上げて取り除きます。
画像:オーラルケア公式HP
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④キシリトールガム
キシリトールが虫歯菌を減らし、プラークの付きにくくなる働きをして、さらに歯の再石灰化を促進させることは、一般的にも広く知られるようになりました。
フッ素とともに日常の中に取り入れて健康で丈夫な歯にしたいものです。
《おすすめのキシリトールガム》
●江崎グリコ「POs-Ca F」
⑤プラーク染め出し液
自分の歯磨きに、ものすごい自信を持っていても、実際に染め出し液を使って、残ったプラークを目で確認したらショックを受けてしまいそうです。
しかし自分の磨けていない場所をしっかり把握することはその後の歯磨きに大変必要なことです。
《おすすめの染め出し液》
●クローバー「歯垢染め出し液」ライトタイプ・・・染色後落としやすいタイプです
3.まとめ
より良い口腔衛生のために歯科衛生士が出来る事は、些細なことかもしれませんが、定期検診にわざわざ足を運んでくださる患者さんに出来る限りのアドバイスをしていきたいと思っています。健康で丈夫な歯。何でも噛めておいしい物をたくさん食べる。それがなによりの幸せですね。正しい知識を持って歯医者さんでいっぱい褒められるようになっていただけたら幸いです。