インプラント処置が決まっている、またはインプラントを検討しているけれど、「手術」という言葉に不安を感じている方も多いと思います。安心してインプラント手術を受けていただくために、手術後の状態・経過、注意点についてお話していきます。
1.インプラント手術の流れ
インプラントとは、ご自身の歯が無くなってしまった部分に人工的な根っこ(インプラント体)を埋め込み、その上から被せものをすることで、お口の中の機能や見た目を回復させる処置です。
①麻酔 ②歯肉の切開 ③顎の骨にドリルで穴をあける ④インプラントを埋め込む ⑤歯肉を元にもどして縫う の手順で行われます。(※一次オペ)
2.インプラント手術の3つのポイントとは?
2-1.インプラントは日帰りできる手術です
先にも述べましたが入院を要さない為、処置終了後はすぐにご帰宅いただけます。ただし、体力の回復をはかるため、帰宅後は安静に過ごしていただきます。手術当日以降の細かな注意事項については「3.インプラント手術後の7つの注意事項」で説明していきます。
インプラント手術後の状態
2-2.インプラントは、ほとんどの場合入院しない手術です。
局所麻酔をしていますので、勿論、術中の痛みはありません。痛みが出ると考えられるのは麻酔が切れる1~3時間後くらいです。それを考慮して術前に鎮痛剤を服用していただいてから処置を開始します。
麻酔後、歯肉を切開して顎の骨にドリルで穴をあけ、インプラントを埋め込み、歯肉を縫って閉じていますので、当然傷口があります。傷口の状態が落ち着くまでには2週間程を要し、手術後2~3日は痛みや腫れなどの症状が強く出ることがあります。
インプラント手術中
インプラント手術直後
インプラント手術2週間後
2-3.手術翌日は特に仕事を休まなくても大丈夫です
仕事をお持ちの方の場合、可能であれば翌日もお休みをとっておくと安心かと思われますが、必ずしもお休みしなければならない訳ではありません。仕事の内容にもよりますが、重い荷物の運搬作業など体に負荷のかかる仕事をお持ちの場合には、事前に担当医とよくご相談ください。
手術翌日に傷口のチェックや消毒、その後、1~2週間後に抜糸処置があります。それも考慮して処置日程を組むことをお勧めいたします。
”補足”
インプラント手術には1回法と2回法があります。
2回法の場合、1次オペと2次オペの2回手術をします。インプラント体が顎の骨に根付いた(オッセオインテグレーションといいます)のを確認してから再び歯肉を切開し、被せものをするための土台部分(アバットメント)を連結させます(2次オペ)。そして最終的にアバットメントの上に被せものをして完成します。状態にもよりますが、インプラント体が骨に定着して2次オペに移るまでに2~6カ月を要します。下顎より上顎の方が定着までの期間が長くかかります。
このように1回法と2回法では手術後の注意する期間や事項が異なります。担当医と手術前によく相談して確認しておいてください。
1回法手術終了後
2回法手術終了後の状態
3.インプラント手術後の7つの注意事項
ここではインプラント手術を終えて帰宅後と、そこから傷口が落ち着くまでの期間に注意していただきたいことをご案内致します。
3-1.麻酔は1~3時間程効いています
虫歯治療や歯を抜く処置で麻酔の経験のある方はご存知かと思いますが、処置後1~3時間ほどしびれて感覚がない時間が続きます。口の中や唇を誤って咬んでしまう恐れがあるため、お食事は麻酔が切れてからとるようにしましょう。やけどの恐れがある温度の高い飲み物も、その間は避けてください。
3-2.唾液が少し赤くなる程度の出血があります
手術後しばらくは、唾液に血液が混じっている状態が続きます。気になって何度もうがいをしたりすることは傷の治りが悪くなるため避けましょう。少量の出血ではなく、血が止まらない、またはその他気になる症状がある場合には、歯科医院に連絡をして担当医の指示を仰いでください。
3-3.処方薬を正しく飲みましょう
手術後には化膿や炎症、痛みを抑えるための抗生物質と鎮痛剤が処方されます。
お薬は指示通りに正しく服用してださい。特に抗生物質は処方された日数分きちんと飲み切りましょう。鎮痛剤は痛みに応じて錠数、服用時間の間隔を守って使用してください。
3-4.食事は麻酔が切れてからとりましょう
麻酔のところでもお話ししましたが、食事は麻酔がきれてからとるようにしましょう。その際、手術部位で咬まないように注意してください。食事は刺激物を避け、負担がかからないようやわらかいものをお勧めします。歯を抜いた時と同様に手術部位は傷がありますので、どんな食事が良いかは「歯を抜いた!腹減った!~抜歯後のおすすめ食べ物~」をご参考ください。傷口が落ち着いてくる2週間ぐらいまでは引き続き、固いものや刺激物は避けるようにしましょう。
3-5.歯磨きでの注意点
手術部位の歯磨きは、担当医・歯科衛生士の指示があるまでは行わないようにしましょう。縫ってある糸にひっかけてしまう、ブラシがあたることのダメージで傷の治りが遅くなる、または再出血してしまう等が起こりうるため、歯磨きの際は注意が必要です。刺激の強い歯磨剤も避けてください。術後は手術部位を洗浄するための洗口剤が処方されると思われますので指示に従って使用してください。手術部位への歯磨き許可が出た後は、やわらかめの歯ブラシを選んで使用することをお勧めします。どんなものが良いか、担当医または歯科衛生士に聞いてみると良いですね。
3-6.血流が良くなる行為は控えましょう
血流が良くなると、血が止まりにくくなるばかりか、痛みや腫れが増す恐れがあります。以下に注意が必要な項目をあげておきます。
3-6-1.入浴
当日の入浴は湯船にはつからず、シャワーで軽く済ませましょう。冬場など、ゆっくりお風呂につかりたいとは思われますが、術後の経過のためにもそこはぐっと我慢をしてください。
3-6-2.運動
ほとんどの方はインプラントの後の気疲れで、激しい運動をする体力などないとは思われますが、元気が有り余ってしまっているかもしれない方に向けて念の為。当日は勿論のこと、術後2~3日は激しい運動を控えましょう。
3-6-3.飲酒
「酒は百薬の長」とは言え、手術後は厳禁です。
手術後2~3日が腫れや痛みがでるピークです。この時期に飲酒をすると腫れや痛みなどの症状が強くなる可能性があります。できれば2週間くらいは控えることをお勧めいたします。手術部位の「アルコール消毒」にはなりませんので、くれぐれもご注意下さい。
3-7.術前後は禁煙しましょう
先に血流が良くなることは避けるとお話ししましたが、喫煙により血液循環が悪くなることも傷の回復を考えると良くありません。何故なら血液によって傷口を治す栄養素が運ばれるからです。ストレス発散として用いられるタバコも、本来は体にとって良いものではないことはご存知かと思われます。インプラントは現段階では保険適応もなく、決して安価な治療ではありません。このインプラント手術を機に、禁煙をしてみるのはいかがでしょうか?
4.インプラント術後の日常生活
インプラント体が骨に定着するまでの過ごし方によって、術後の経過を左右すると言っても過言ではありません。せっかく決心して行ったインプラント手術の経過が悪くならないように、日常生活での注意点をご案内致します。
4-1.日常生活の注意点
手術当日からインプラントが骨に定着するまでの間、日常生活で気を付けて頂きたいことを挙げておきます。
- 舌や指で傷口を触る・・・術後、気になるかもしれませんが傷の治りが悪くなるので避けましょう
- 頬杖・・・手術部位に力が加わるため良くありません
- 食いしばり、歯ぎしり・・・同じく手術部位に負担がかかります。癖のある方は事前に歯科医師に相談することをお勧めします。
4-2.旅行は2週間程避けましょう
手術後の状態でも説明しましたが、消毒や抜糸処置もありますし、万が一、傷口が開いてしまった、強い痛みが出た、等の症状が出た場合に早急な対応ができないため、術後2週間程は通院できない環境にならないことをお勧めいたします。
4-3. 3~4週後の時期は硬い食物に注意しましょう!
インプラントと骨が根付く一番大切な時期は、個人差にもよりますが3~4週後といわれています。手術後の痛みや腫れがなくなった時期に、あまり手術側で普通に食事してしまうと、硬いものとインプラントがぶつかって根付くのを遅らせてしまうことがあります。手術後3~4週は硬い食べ物は手術側で食べないようにしましょう
口腔インプラント治療指針2012より(公益社団法人日本口腔インプラント学会 編)
5.まとめ
インプラント手術後は安静にし、体力の回復をはかりましょう。食事は麻酔がきれてから摂るようにし、傷口の負担になるような刺激物及び固いものは避け、やわらかいものを選びましょう。処方されたお薬はきちんと指示通り服用しましょう。手術部位の歯磨きは担当医または歯科衛生士の許可が出てから行いましょう。血流が良くなる行為(入浴・飲酒・運動)は避けましょう。喫煙者はインプラント手術を機に禁煙を検討しましょう。その他、日常生活での注意事項を守りましょう。
インプラント手術の経過が良くなるも悪くなるも、先生の腕の次に大事なのは、あなたの術後の過ごし方ということです。信頼できる先生に巡り合えてインプラント手術を決意したのであれば、手術は安心して先生にお任せするとして、術後はあなたご自身で、大切な体を守ってくださいね。