親知らずが出てくると、多くの人が「抜歯」を一番に考えます。確かに親知らずはトラブルを起こして、人々の悩みの種になるやっかいな存在です。でも、親知らず=抜歯ではありません。抜歯はどの歯に限らず嫌なものです。どんな状態なら抜歯しなくて良いのか。抜歯しないといけない場合の注意点をお話しします。
目次
1.抜かなくてもいい、残せる親知らず
親知らずを抜かずに済んだ場合、将来的に自分のほかの奥歯が虫歯や、抜かなくてはいけなくなった場合にそこに『移植』して親知らずを利用することができたり、高齢になって入れ歯を入れなくてはいけない場合のバネ(クラスプ)をかける歯として大切な存在になったり。親知らずは大切な1本の歯なのです。
1-1 まっすぐ生えている
- 顎の発達が十分でスペースがある場合親知らずはまっすぐに生えてきます。親知らずは退化傾向にあり、4本全部あるとは限らず、全く無い人から4本ある人まで様々で、レントゲンを撮らないとわかりません。まっすぐに出ていて噛みあわせに問題が無ければ抜歯の必要はありません。
1-2 歯磨きも問題なくきれいに保てている
親知らずは真ん中から奥に数えて8番目にあり、かなり奥まで歯ブラシを入れないとプラークを落とせません。でも意識してしっかり歯ブラシを当てたり、フロスや歯間ブラシを入れることが出来て、他の歯と同じようにケアが出来ればそのまま使用してなんの問題もありません。
2.抜歯したほうがいい親知らず
大切な1本の歯なのに「抜歯」になるケースはどんな場合でしょう。最初から抜歯を勧められる場合と、後にトラブルが出てきて抜歯をする場合といろいろなケースがあります。
2-1 歯肉の腫れを繰り返す
- 親知らずが出てくるとき、少し頭が見えてるのにそれ以上出てくることがなく歯肉が被っている状態を半埋伏(はんまいふく)と言いますが、歯肉の中にばい菌が入ったり、歯肉を噛んでしまっていていると、歯肉が腫れてしまいます。何度も繰り返す場合は抜歯することをお勧めします。
2-2 斜めに生えている
7番目の歯(第2大臼歯)に寄りかかるように斜めになっている場合は、そこから歯がまっすぐに向きを変えることはありません。斜めになっていると物が挟まりやすく、どんなに歯磨きを注意深く続けても虫歯になってしまう事の方が多いです。しかもこの場合は7番目の歯も虫歯になることが多いのでそれを防ぐためにも抜歯を選択することが望ましいでしょう。
2-3 虫歯になっている
せっかくまっすぐに生えてきた場合であっても、日ごろの歯みがきがうまく出来ないと虫歯になってしまいます。親知らずは奥にあるため治療に必要な器具を入れるのが難しかったり、よく見えなかったりして完全な治療をすることが難しい場合があります。
“親知らずの豆知識”
- 親知らずは、18~20歳で出てくることが多いので、その名が付いています。別名「智歯(ちし)」と言います。軟らかい食事を好む現代の人は昔の人に比べて、顎が小さくなり、歯の出てくるスペースが無いため、斜めに向いていることが多いです。退化傾向にあるのでもともと無い人も多く、本数は0~4本まで様々で、レントゲンを撮らないとわかりません。
3.親知らずを抜歯する場合の心構え
抜歯が避けられない場合どのくらい痛いのか、痛みはいつまで続くのか、どうやって抜くのか。など心配は尽きないと思います。できる事なら痛みもトラブルもなく、あっという間に抜歯が終わってしまえばいいですよね。そんな不安を少しでも軽減できる方法を考えましょう。
3-1いつ抜歯をするのが良いのか
歯肉に炎症があり痛みがあると、麻酔が効きにくい場合があります。歯肉の状態が安定しているときが望ましいでしょう。また、抵抗力が落ちていると炎症の治りも遅くなるので、寝不足、疲れは厳禁です。年齢でいうと、出来るだけ若いときに抜歯するのがお勧めです。骨も軟らかく、傷の回復も早いので17~25歳で抜歯するのがベストでしょう。
3-2どこで抜歯するのが良いのか
かかりつけの歯科医院で歯科医とよく相談することが望ましいですが、斜めに生えていたり、骨の中に埋まっていたり、抜歯するのが困難だと予想される場合は、口腔外科での抜歯を勧められることがあります。短時間で抜歯が出来ると患者さんの負担も少なく、抜歯後の回復も大きく変わります。抜歯の経験が多い歯科医はやはり安心ですね。
4.抜歯の流れと費用
いよいよ抜歯の日。抜歯はどう行われるのか。不安でいっぱいだと思います。歯科医院によって若干の違いはありますが、実際の流れを見ていきましょう。
4-1抜歯の流れ
問診をします
当日の体調を確認し抜歯が必要な訳を再度説明したり、麻酔のリスク、普段飲んでいる薬と抜歯後に出る薬の飲み合わせなどの確認をします。抜歯について疑問があれば確認することが大切です。また、普段から血圧が高めの方は血圧計をつけて観察しながら進めていきます。
麻酔をします
歯科医院によっては針を刺す部位に表面麻酔をして、麻酔の注射を行います。麻酔をすることで施術中は痛みを感じません。麻酔が効きにくい場合は遠慮せず声をかけましょう。
詳しくはこちらを参照してください
抜歯します
麻酔が十分効いていることを確認したら歯を抜いていきます。最初にヘーベル(別名エレベーター)を使い歯に少しずつ力を加え、歯を骨から脱臼させます。十分に脱臼したら鉗子(かんし。ペンチではありません)で歯を抜きます。全部抜けたかどうかの確認のためレントゲンを撮ることもあります。
抜歯窩(抜いた後の穴)の消毒をします
穴の中に歯や骨のかけらが残っていないか確認をします。
縫合をします
切開したり、抜歯窩が大きかったりする場合は歯肉を縫合することで回復が助けられます。
抜歯後の説明、投薬があります
抜歯後の注意事項について説明があり、痛みどめや抗生物質が処方されます。痛みどめは痛いときに飲み、抗生物質はきちんと飲み切ります。
《親知らずの抜歯での追加処置》
場合によっては以下の処置が必要になることがあります。
歯槽骨を削る ・・親知らずが斜めにはえていたり、位置が深くて骨が邪魔している場合は骨を削って取りのぞきます。
歯の分割 ・・親知らずが斜めや横向きになっている場合、歯を削って分割して抜いていきます。
歯を露出させる ・・完全に歯肉の下に歯がある場合はメスを用いて歯肉を切開して歯を露出させます。
《親知らずの抜歯での後日の処置》
傷口の消毒、抜糸(歯科では「ばついと」と言います)をします。抜歯後1週間ほどで傷の回復が順調なら縫っていた糸を取り除きます。
4-2抜歯の費用
費用については検査の種類、投薬など歯科医院によって違いがあります。目安にしてください。
まっすぐに生えている親知らず ・・約2000円
横向きの親知らず ・・約3000円
完全に埋伏している親知らず ・・約4000円
レントゲン検査の種類、投薬の種類で費用が前後します。
とくに「パノラマレントゲン」や「CT検査」ではそれぞれ1200円、4000円程度費用が増えますので、ご注意ください。
パノラマレントゲン
CT画像
5.抜歯後の注意点
抜歯後の注意をしっかり守ることで痛みや傷の回復に大きく差が出ます。侮ってはいけません。抜歯はあくまで手術なのです。
5-1ガーゼを噛んで止血をする
抜歯後はガーゼを10~20分、噛んで圧迫止血を行います。唾液に滲む程度になれば問題ありませんが、まだ出血があるならティシュペーパーを折りたたんで噛みなおします。
親知らず抜歯後の出血について詳しくはこちらの記事を参照してください
5-2うがいは静かにブクブクうがい
血の味が気持ち悪いからと言って何度もうがいをしたり、強く力をかけてしまうと抜歯窩に、かさぶた(血餅)が取れてしまい「ドライソケット」を起こすことがあります。血餅はお口の中の細菌からむき出しになった抜歯窩の骨を守る大切な役割を持っていますが、取れてしまうことで激痛を起こすことがあり、その状態をドライソケット言います。
5-3外から冷やす
冷やしすぎは逆効果で回復が遅れます。濡らしたタオルを当てると痛みが和らぎます。
5-4熱いお風呂は避け安静にして休む
血流が良いと出血しやすくなります。抜歯窩に血が流れ込むと痛みが強くなるのでお風呂は避け、頭を高くして安静にします。安静にすることで炎症を抑え熱が出るのを防ぎます。
5-5お酒、たばこを控える
お酒などのアルコールは血液の循環が良くなり、痛みが増します。たばこは毛細血管を収縮させるので、傷の回復が悪くなります。
親知らずの抜歯後の痛みについて詳しくはこちらの記事を参照して下さい
6.まとめ
歯を抜くことは誰にとっても特別なことです。親知らずの抜歯となれば「痛い」「腫れる」「時間がかかる」などマイナスなイメージしかないかもしれません。でも正しく理解することで必要以上に怖がるともありません。もし親知らずの抜歯をすることなく、きちんと噛むことが出来るなら、毎日きちんと歯磨きなどのケアをして大切にしてください。人の永久歯は1度きりしか出てきません。親知らずが無い人は全部で歯が28本。親知らずが4本ある人は32本。歯が多ければ多いほど歳をとってもおいしい物が食べられるかもしれませんよ。