歯の痛みはとても辛いものです。
『最近歯が痛いなあ。』そんな自覚症状があるのに、仕事や予定があってなかなか歯医者に行くことが出来ない。
あるいは、歯科医院が怖くてどうしても行きたくない。
様々な理由で放置してしまった結果、歯の痛みが悪化してしまった。この痛みを何とかしたい。
そんな時に出来る自宅で自分でできる応急処置方法についてお話していきたいと思います。
「歯が痛い」と言っても、歯自体に本当に原因がある場合とそうではない場合があります。
歯科医院ではそれらを、「問診」「視診」「触診」「打診」「レントゲン撮影」などを行って診断します。
ですから、応急処置はあくまでも一時的なものであって、その時に痛みが治まっても、痛みの原因を根本的に取り除かない限り、症状は進行してしまいます。
早めに歯科医院での治療を受けることが大切です。
目次
1.歯自体が原因の痛み4タイプと応急処置方法
歯科の治療での「痛み」はほとんどが「歯」に原因があります。
歯が痛む原因として、真っ先に思い浮かべるのは「虫歯」だと思いますが、実はそれだけではありません。
1-1 虫歯によるもの
虫歯ができるメカニズムをご存じですか?
お口の中の「ミュータンス菌」はお口の中に入ってきた砂糖と結びついて「歯垢・プラーク」をつくり、その歯垢は「酸」を作り出します。
その酸が歯の表面のエナメル質を溶かすことで「虫歯」が始まります。
そして、一言で「虫歯」と言っても、進行レベルによって象牙質までの場合と(C0、C1、C2)、神経(歯髄)まで達してしまっている場合(C3、C4)では痛み方が違うのです。
C1~C2までの虫歯は、見た目には歯の表面に黒い穴が開いている状態です。
このレベルでは、虫歯はまだ象牙質までしか進んでないのになぜ痛みを感じるのでしょうか?
それは、象牙質の中の「象牙細管」という無数の穴が神経のある「歯髄腔」に繋がっており、その穴を通して刺激が伝わって「痛み」を感じるためです。
画像:雑誌『niko』(クインテッセンス出版)
《どんな痛み?》
・冷たい物や甘い物がしみる
・そこで物を食べると圧迫されてズキンとするような痛みを感じる
《応急処置》
虫歯の周りを清潔に保ち、温度の刺激が少ないぬるま湯を使います。
自然に治ることは無いので、出来るだけ早いうちに治療を受けましょう。
1-2 歯髄炎によるもの
虫歯がさらに進行して神経まで達してしまい、神経が細菌で感染したり、打撲などの物理的な刺激で炎症が起こっている状態を「歯髄炎(しずいえん)」といいます。
※C3の状態とは虫歯が神経のある歯髄まで進行してしまった場合をあらわしますが、神経が感染していないこともあり、必ずしもC3と「歯髄炎」が同じものとは言えません。歯科医師はいろいろな検査をして診断しています。
《どんな痛み?》
・冷たい物や空気を吸い込んでも痛みを感じる。炎症が初期の時は痛みも一時的ですぐにおさまる
・進行すると、何もしなくても痛みがあったり、温かい物でズキズキとした激しい痛みが続く
・就寝時、心臓の動きとともにズキンズキンと痛む状態(拍動性)だとかなり進行している状態なので、速やかに治療を開始する必要がある
《応急処置》
もし可能ならば夜間救急の歯科医院で治療を受けるのが望ましいですが、無理な場合は痛み止めを飲みます。
ただし、長期間の服用は避けましょう。
購入の際は普段服用している薬や合併症などを、薬剤師さんに相談して選んでもらうようにします。
夜間、休日診療の歯科医院の情報については、お住いの地域の広報や歯科医師会のホームページをご覧ください。
●処方薬と同等な効果の得られるおすすめの市販薬●
画像:第一三共ヘルスケア公式HP
薬剤師のいる薬局か通販で購入可能な第一類医薬品で、価格は650円程度です。
第一類医薬品のため他の市販の鎮痛薬と比べて効き目が強く、歯科医院で処方される鎮痛薬と同じ薬用成分を含んでいます。
虫歯のところに「正露丸」を詰める・「今治水」を使う事について
どちらの薬も昔からあるロングセラー商品で、知っている方も多いですね。
歯が痛くても治療に行けないと、頼りたくなってしまうのもわかります。
これらの薬を虫歯に詰めて使用しますが、その使い方はちゃんと明記されていて、使用法を守れば効果があります。
しかし、あくまでも一時的に痛みを緩和させるためのもので、治すためではありません。
使用は最低限にして出来るだけ早く歯科医院での治療を始めることをおすすめします。
1-3 歯の破折によるもの
硬いボールが当たったり、強い力で噛んでしまったりすると、歯が破折してしまうことがあります。
噛んだ時にズキンとする痛みで、歯が揺れる場合もあります。
出来るだけ早く診察を受けることで、神経を残すことが出来たり、歯を抜かないで修復することが出来る場合があります。
自分の歯は大切です。
一本でも失くしてしまうのは避けたいですから、とにかく早めに歯科医院を受診しましょう。
↑ 丸で囲った部分、歯が割れてしまっています
↑ 抜歯した破折歯。1本の歯が根元のほうで割れているのがわかります
歯が折れてしまった時には、『お口の異常 歯が折れた人が最初にするべき3つの事』記事もぜひご参考にしてくださいね!
《応急処置》
出来るだけその歯は使わないで、硬い食べ物は避けましょう。
折れてしまった歯を、乾燥を避けるために保存液、牛乳、生理食塩水などに入れて、歯科医院に連絡し状況を伝えたのち受診しましょう。
1-4 知覚過敏によるもの
就寝時の歯ぎしりや、毎日の歯磨きで硬い歯ブラシで力を入れて磨きすぎるなどの原因で、歯と歯肉の境目の象牙質が露出してしまうと、象牙細管から伝わる刺激でズキッとする痛みを感じます。痛みはあとを引かない、瞬間的なものであることが特徴です。
画像:雑誌『niko』(クインテッセンス出版)
知覚過敏のより詳しい治療方法・対処法については、『痛い!知覚過敏の治療方法と悪化させないための4つのポイント』記事をご参考になさってください。
《応急処置》
歯の根元のしみる部分を磨く時は、専用の柔らかい歯ブラシを使用して優しく磨き、ぬるま湯を使用します。
しみ止めの成分を含む歯磨剤を使用すると、効果がありますが長期的な使用がポイントです。即効性に関しては個人差があるためです。
オススメは「シュミテクト」の歯磨剤です。CMなどで見かけたことのある方も多いかもしれません。
知覚過敏に効果的なだけではなく、ホワイトニング効果や歯周病・虫歯予防効果のあるタイプも販売されていますので、ご自分にあったものを選んでみてくださいね。
画像:GSK
2.歯周辺の組織が原因の痛み2タイプと応急処置方法
痛みの原因が歯自体ではないケースがあります。
歯周辺の組織に炎症などが起きている場合です。
歯の周り(歯周組織)の痛みは、細菌の感染による歯肉、歯根膜(根と歯槽骨の間にありクッションの役割を持つ繊維)、歯槽骨の急な炎症から起こります。
痛みは持続的に続き、歯を軽くたたいたり、噛み合わせることで響くような痛みがあるのが特徴です。
細菌の侵入経路によって、根尖性歯周炎、辺縁性歯周炎の2タイプにわけることができます。
2-1 根の先の炎症によるもの(根尖性歯周炎)
虫歯が進行したまま放置してしまうと、歯髄(根の中の神経と血)が死んでしまい「歯髄壊死(しずいえし)」の状態になります。
更に放置すると、壊死した歯髄が腐敗して「歯髄壊疽(しずいえそ)」になります。
歯の根の中で多数の細菌が繁殖し、根の先(根尖)に感染が広がり病巣が拡大して、膿が溜まった状態のことです。
《どんな痛み?》
・歯を噛み合わせると痛みが悪化する
⇒歯根の先端から、歯槽骨(歯を支える顎の骨)の中に膿が溜まり、膿が発するガスで内圧が高まるので、激しい痛みが持続的に生じるため
・歯肉や顎が腫れることもあり、発熱や悪寒の症状が起こることがある
・強い痛みは4,5日で収まるが、根尖性歯周炎は自然治癒することがなく、急性発作(強い痛みや・腫れ・膿が出る)を繰り返すことがあるため、早急に治療を開始することが大切
《応急処置》
痛みがかなり強い状態の場合は、痛み止めを服用すると多少の効果はあります。
根の先端に膿の袋ができて内圧が高まることで痛みがある時は、歯科医院で麻酔をした上で歯ぐきをメスで切開、膿を出す処置を行うことで痛みが楽になります。
抗生剤の服用が効果的なので、自宅での応急処置だけでは痛みを止めることは難しいのです。
速やかに歯科医院で診察することをおすすめします。
※患部を冷やす方がいますが、冷やしすぎは血行不良や循環に悪影響を及ぼすこともあるので避けましょう。
2-2 根の周囲の炎症によるもの(辺縁性歯周炎)
細菌が歯肉から入り込むことによって、根の周りの「歯根膜」や顎の骨(歯槽骨)に炎症が広がって、歯肉の腫れ、発熱を起こし、痛みが強くなる状態を「辺縁性歯周炎」といいます。
歯をたたいたり、噛み合わせると痛みが増し、歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)が深くなり、根の周りに膿の袋ができるのが特徴です。
↑ 歯の周りの骨が無くなっているのがわかるでしょうか
↑ レントゲンで撮ってみると右から3番目の歯の周辺は、他の歯に比べ歯の周辺組織が黒くスカスカに映っているのがわかるかと思います
《どんな痛み?》
・歯と歯がぶつかると響く強い痛みがある
・歯と歯肉の間から、出血や膿が出たり、歯がグラグラ動くことがある
・持続的な痛みを感じる
《応急処置》
歯にプラーク(歯垢)があると炎症の原因になるので、出来るだけ取り除き清潔にします。
ただし、痛みが強い部位は無理をしないで、周りの磨けるところを磨きましょう。
歯科医師の診察を受け、歯科衛生士による歯石の除去など定期的なメンテナンスを続けて、正しい歯みがきを習慣にすることが大切です。
3.歯肉が原因の痛み3タイプと応急処置方法
歯肉の痛みには、歯周ポケットに何らかの原因があって起こるものもあります。
3-1 智歯周囲炎によるもの
智歯(ちし)とは親知らずのことです。
「智歯周囲炎」とは、親知らずが生えてくるときにその歯の上の歯ぐきが炎症を起こした状態のことをいい、とくに下の歯に多く見られる症状です。
歯の一番後ろに出てくる親知らずは生えてくるスペースがじゅうぶんに取られていない場合が多いため、ほとんどが斜めに傾いた状態で生えてきます。
親知らずが生えると、1本手前の歯との間に、歯ブラシの毛先が届きにくい隙間ができてしまいます。
ここに汚れが溜まり、不潔になってしまうと智歯周囲炎が起きてしまうのです。
症状が悪化すると顎の骨にも影響がでて、顔が腫れたり口が開かなくなることがあります。
↑ 少し見えづらいですが、一番奥のところに他の歯より一段低く生えてきている親知らずを見ることができます
《応急処置》
出来るだけお口の中を清潔に保つようにします。
毎食後必ず歯磨きを行うようにし、さらに歯磨き後には刺激の少ない洗口剤でうがいをするとより効果的です。
画像:ウェルテック公式HP
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コンクールFはアルコールを含まない低刺激の洗口剤で、殺菌効果も高いためとてもオススメです。
3-2 歯の間に食べ物が詰まることによるもの
歯と歯の間に小さな隙間があると、食事のたびに食べカスが入ってしまい、それによって歯が圧迫されて痛みを感じることがあります。
特に繊維質の物は歯に挟まりやすいため、こうした痛みを起こしやすくなります。
食べカスが挟まったままになっていると虫歯の原因になるだけではなく、歯肉が炎症をおこして出血したり、口臭の原因にもなりますので歯磨きの際にしっかりお掃除するようにしましょう。
《応急処置》
デンタルフロスや歯間ブラシを使用して、丁寧に汚れを取り除くことで痛みをなくすことができます。
普段の歯ブラシだけの歯磨きにプラスして、こうした清掃補助グッズを使うようにしましょう。
歯間が狭い部位はそのままにしていても食事のたびに食べカスが挟まってしまうことになります。
歯の隙間を狭くする治療法もありますので、そうした治療が可能かどうか一度歯科医師に相談してみましょう。
3-3 口内炎によるもの
歯肉や粘膜に出来る潰瘍(アフタ)を口内炎といいます。
塩分の強いものや酸味の強い物が触れると痛みがあります。
1週間前後で自然に治ることが一般的ですが、複数個出来たり、なかなか治らない場合は歯科医院での診察を受けましょう。
《応急処置》
お口の中を清潔にすることが大切です。
歯磨きを丁寧に行い、刺激の少ない洗口剤の使用も効果的です。
塩分や、酸味の強い食品は控えましょう。
4.要注意!歯が痛いときにしてはいけない3つのこと
日常生活の中で、歯が痛いときにしてはいけないことがあります。
こうした行動をとることで、さらに痛みが悪化してしまう事もありますので注意しましょう。
4-1 歯をさわる
腫れている歯肉や、虫歯で開いてしまった穴を指や舌でさわったりすることは良くありません。
気になっても揺らしたりつついたりなど刺激をすると、痛みが増してしまうことがあります。
また、清潔でない指で患部をさわるとバイ菌がついてさらに症状が悪化してしまう危険性があります。
歯磨きの際なども、歯ブラシで出来る範囲でお口の中に残った食べカスを慎重に取り除き、必要以上に患部を刺激しないようにしましょう。
4-2 熱い湯船につかる
入浴で体温が上がり血行が良くなると、痛みが強くなります。
歯に痛みを感じている間はぬるめのシャワーを浴びる程度にしましょう。
激しい運動も同様に血流がよくなって痛みが増しますので控えましょう。
4-3 飲酒、喫煙をする
アルコールは体温が上昇して血行が良くなるので痛みが増します。
タバコは歯を刺激する成分が多く含まれるのでこれもよくありません。
痛みがある時はどちらも控えた方が良いですね。
5.まとめ
歯の痛みはとてもつらいものです。
出来るだけ早く取り除きたい気持ちはよくわかります。
しかし、こうして見ていただくと、応急処置はあくまで一時的なもので、その時に痛みが無くなっても治ったわけでは決してないことがおわかりいただけるかと思います。
歯には自然治癒がないのです。
出来るだけ早く治療を開始することが、ご自身の歯を長く使っていく事に繋がります。
痛みのある歯の治療は長引くことも多いですが、良くなるまでしっかり治療を続けることが大切です。
そして次回からは、痛みがひどくなる前に歯科医院へ行きましょう。