「メタボ」って?と聞かれたら詳しいことはさておき、ざっくりした感じでもほとんどの方が知っていますよね。正式には「メタボリックシンドローム」という名前なのですが、中高年の生活習慣病として日常的に定着してきています。
では、「フレイル」って聞いたことはありますか?「フレイル」は、健康な体から要介護に至るまでの中間の状態のことで、近年、介護予防のキーワードとして医科・歯科両方が注目している新しい概念のことです。
誰だって人の世話にならずにできるだけ健康な時期を永く過ごしたいと思いますよね?
ここでは、「フレイル」とはどんな状態なのか、また要介護にならないために日常生活でどんなことを意識して生活していただきたいのか等を紹介していきます。
ちなみにこの内容は、歯科医院の待合室等に設置されている月刊誌「nico」の中に掲載されている東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢先生の記事「要介護にならないための大人の“フレイル”予防講座」から引用しています。通院先の歯科医院に設置されている方はご覧いただけますが、より多くの方にこの「フレイル」について知っていただきたく思い、抜粋させていただきました。
患者さんと歯科医院の笑顔をつなぐ歯科情報誌 nico(ニコ)2017年6月号
目次
1.人はみんなこのように老いていきます
日本人の平均寿命は2015年、83.7歳で世界首位となりました。
ですが、みんながみんな健康なまま人生の最後を迎えているわけではありません。
ここに5,715人の高齢者の「年齢」と「自立度」の変化を20年追跡調査結果をグラフにしたものを上げます。
※1 複雑な日常生活動作:交通機関の利用・電話応対・買い物・家事・洗濯・服薬や金銭管理など
※2 基本的な日常生活動作:家庭における歩行や移動・食事・更衣・入浴・排泄など
上のグラフから3つのパターンが分かります。
❶60代後半からずっと自立度が高いまま、ある日パッタリ。いわゆるピンピンコロリ。
最後まで自分のことは自分でできている状態。
❷70代半ばから自立度が下がっていき、だんだんと要介護状態に。
❸60代後半から脳卒中などの病気によりガクンと自立度が低下。要介護状態のまま最後まで過ごします。
❷と❸に属する人は全体の9割を占めます。私たちの中で9割の人は要介護状態を経て亡くなる、ということです。
でも、どうせなら、できるだけ自分のことは自分でできる状態で長生きしたいと思いませんか?
そのために今求められているのが、「フレイル」予防なのです。
2.「フレイル」って何?
簡単に言うと「フレイル」とは健康と要介護の中間の状態です。
「フレイル」という言葉は、frailty(虚弱)という英語からきています。健康と生活習慣病の間に「メタボ」があるように、病気の段階と、病気でない段階の間にステップを設けて、その段階にならないように予防することが効果的とされます。生活習慣病がかなり進んでから予防に取り組んでもなかなか効果が上がらないのと同じで、予兆の段階での予防が重要となります。
上の図は、「健康」から「要介護」状態への推移を表しています。いわば「老いへの坂道」です。
左側が「健康」で自分で何でもできる状態。それから「プレフレイル」(前虚弱)から「フレイル」(虚弱)となり、やがて「要介護」状態になっていきます。急激に落ちるか、ゆっくり落ちるか、入退院を繰り返しながら落ちるかは人それぞれです。
2-1 「プレフレイル」から「フレイル」へ
フレイルの前の段階、プレフレイルとは、「食事の汁物でムセやすくなった」「階段を降りるときに膝が痛むようになった」など、生活に支障は出ていない「ささいな衰え」の状態のことです。
フレイルはプレフレイルの状態が進み、「杖をつかないと歩けなくなった」「駅の階段を上るときに手すりをしっかりつかまないといけなくなった」「体重が減ってきた」など、要介護ではないけれども、だいぶ生活に悩みや困り事が出てきた状態です。ある日突然フレイルになるのではなく、健康な状態から徐々にプレフレイルを経てフレイルに移行していきます。
2-2 「フレイル」の段階なら頑張りしだいで戻れる!
フレイルの段階は、頑張り次第でその前の状態に戻れる可能性、可逆性があります。プレフレイルも同じです。長寿の要因は遺伝的な要因が25%、食事やお口の健康、運動、心の健康や社会性などその他の要因が75%を占めるといわれています。後者の75%は自分で管理することができる要因です。しっかり予防や改善に取り組めば戻ることは可能なのです。
2-3 フレイルは多面的な要因が影響する
フレイルの特徴として、多面的な要因が影響するということがあげられます。
フレイルの最大の要因として「サルコペニア」(全身の筋力低下や身体機能の低下)がありますが、「今日はなんだか気乗りしないからお出かけしない」という心や認知の衰えや、閉じこもりや孤食など、社会性の低下が要因になることもあります。この社会性の要素はばかになりません。人とのつながりや生活の広がりの減少が、身体の衰えを招くケースが多くあります。
誰とも会う予定がない➡家にひきこもる➡出歩かないのでお腹が空かないし買い物に行かないのでワンパターンな食事になる➡栄養が足りず体力が落ちる➡やる気が出ない➡家にひきこもる
こうした要因が重なり合ってフレイルが連鎖的に進行し、要介護状態へと進んでいきます。
3.今日からできるフレイル予防
まず、あなたなりのフレイル予防をみつけましょう。
生活習慣病のメタボを予防するには、簡単に言うと「食べる量を減らす」「もっと運動をする」となりますが、フレイルの予防は、以下の3つが重要な柱となります。
❶栄養:しっかり噛んで食べる
❷運動:できるだけ体を動かす
❸社会参加:なるべく社会性を保つ
上記のどれかひとつが下がるとどこからフレイルへとつながっていきますので、この3つを三位一体まんべんなく底上げするのが理想となります。そのためには継続的にできることが大切です。
かといって「毎日2,000歩歩いて下さい」と急に言われても難しいですよね。体にいいとは分かっていても、言われて実行できるのは既に毎日歩く習慣のある人だけだと思います。
3-1 自分の好きなことや趣味でフレイル予防をする
例えば、カラオケ好きな人なら、月1回のカラオケをもっと行く回数を増やすとか。お友達と行っているなら、もっとお友達を誘って回数を増やすとか。(=社会性)いつも歌うのが3曲くらいなら10曲歌ってみようとか。10曲歌う方が2,000歩歩くより消費カロリーが多いかもしれない。(=運動)カラオケが終わったら仲間みんなでファミレスに寄って楽しくワイワイおしゃべりして、お肉を食べて帰るとか。(=栄養)
囲碁や将棋が好きな人なら、囲碁や将棋に行く回数を増やしてみるとか。来週も○○さんに勝つために今日も自主トレがんばるぞ!とか。
人それぞれに足腰の状態も趣味も違います。3つの柱をまんべんなく底上げするもので、自分なりにこれならできそう!というものを見つけていただきたいです。
4.お口の健康はフレイルに大きく関りがあります
忘れてはならないのがお口の健康です。お口の健康はフレイルの3要素の「❶身体、❷心・認知、❸社会性」すべてにかかわります。
❶しっかり噛めないので栄養が偏り体が弱る
❷体力が落ちると前向きになれないし、認知症への影響もでてくる
そうした状態になれば❸人とのかかわり(社会性)もおっくうになってしまう
4-1 「オーラルフレイル」にも要注意を!!
お口の機能のささいな衰え(オーラルフレイル)は甘く見てはいけません。「最近口が動かなくなって滑舌が悪くなった」「食べこぼしが増えた」「食事でムセるようになった」「噛みづらい食品が増えた」というのは危険なサインです。それだけではとくに生活に困っていなくても、ささいなお口の衰えがひとつ、ふたつと重なっていくことでどんどんお口の機能が低下していきます。
噛めないから軟らかいものばかり食べれば噛む機能が低下しますし、食べられないものがさらに増えていきます。「奥歯に違和感があるから噛み応えのあるお肉を避けて、軟らかい白身魚や豆腐をたくさん食べてタンパク質をとっている」というのもダメです。奥歯に違和感があるなら、できるだけ早めにかかりつけの歯科医院に行って、お肉も噛めるようにしてもらって下さい。しっかり噛んでしっかり食べるということは、当たり前すぎて軽視されがちですが、本当に大切なことなのです。
また、お口の機能から社会性が衰えるだけではなく、社会性からもお口の機能が衰えます。お口は食べる働きだけではありません。いっぱいしゃべらなくなっても衰えてしまいます。
5.まとめ
老いた人すべてが要介護状態になるわけではありません。誰しも皆できるだけ長く自立した生活を送りたいと思っているはずです。要介護の前段階であるフレイルは予防することによりもとの状態に戻る可能性があります。フレイルにはお口の健康が大きくかかわっています。お口の機能と社会性、両方を維持するために、みなさんに合ったやり方で、フレイル予防、ひいては要介護にならないための予防をはじめていっていただければと思います。