歯を磨くことが虫歯や歯周病の予防に大切なのは、皆さんご存知ですね。
また、高齢者にとって口腔ケアを行うことで、誤嚥性肺炎の予防になることもご存知のことと思います。
介護者の方が歯磨きをしようとしても、なかなか口を開けてくれない時、どうしたら良いのでしょうか。
嫌がるのに無理やり磨く?
そんなに嫌なら仕方ないと、あきらめる?
毎日行う口腔ケアの基本は「焦らず、徐々に、ゆっくりと」。
根気強く慣れてもらうことが大切なのです。
目次
1.「口があけられない原因」ごとに対処法は異なる
口を開けようとしない「開口拒否」と口を開けられない「開口障害」には大きな違いがあります。
「開けたくない」のか「開けられないのか」、それぞれ原因は異なり、対処の方法も違ってきます。
食事やあくびなどが出来るのに口をひらかない場合は「開口拒否」、本人自身の力でそれらを行うのが困難であるならば「開口障害」が考えられます。
開口障害の場合は、歯科医院の受診が必要になります。
1-1 病的原因によって口が「開けられない」
顎関節症、口腔内に潰瘍などがある場合は本人の意思にかかわらず、口をじゅうぶんに開けることができません。
こうした原因によるものは「開口障害」に分類され、歯科や口腔外科を受診する必要があります。
1-2 認知機能の原因から口を「開けられない」
何をされるのか理解できない、どうしたらいいのかわからないなどといった状態は認知機能的な原因によるものです。
笑顔で接してわかりやすい言葉がけを心掛けます。
顔を覚えてもらうことで少しずつ慣れていきます。
1-3 心理的原因によって口を「開けたくない」
口臭や虫歯が気になる、虫歯や歯周病で痛みがあり治療への不安や恐怖がある…といった理由でなどで口を開けない場合は「開口拒否」にあたります。
これらの場合は笑顔で本人の気持ちに寄り添い、苦痛を感じるケアはしないことが大切です。
本記事では主に、この開口拒否の方向けの口腔ケア方法・口腔ケアグッズについてご紹介していきます。
口腔ケアをする側もされる側もできるだけ大変な思いをしないよう、気をつけられるポイントや便利なグッズがあります。
2.「開口拒否」へのアプローチ方法4つ
ご本人にお口を開けることへの抵抗がある、歯磨きを嫌がられてしまうといった「開口拒否」の場合、これからご紹介する3つのポイントを心がけてみてください。
2-1 声がけをしてから口腔ケアをはじめる
口腔ケアを行う際には「歯をきれいにしましょうね。さっぱりしますよ」などと笑顔で声をかけながら、歯ブラシを見せることで安心感を与えます。
やさしく声をかけて、不快感や恐怖を感じさせないことで口の中を触られることへの抵抗がなくなってきます。
口腔ケアが「気持ちいい」と感じてもらえるまで根気強く行います。
2-2 決して無理強いはしない
口を力ずくで開けたり、無理に歯磨きをしようとせず、あいさつや声掛けをして慣れてもらうことが大切です。
相手のペースに合わせてゆっくりと。
ときには時間帯を変えてみるのもおすすめです。
2-3 コミュニケーションをとりながら信頼関係を築いていく
手を握って握手をしたり、少しずつ口の周りを触ったりしてみましょう。
2-4 苦痛を与えないよう気を配る
相手の体調や表情を観察しながら、痛みを感じさせないように出来るだけ短時間に行います。
口腔ケアを行う姿勢も大切で、椅子に座るか、上半身を30度起こした状態で行います。
むせたりしないように気を付けることが大切です。
画像:カワモトHP
3.ムリなく歯磨きをおこなうための具体的手順はコレ!
歯ブラシなどの器具をお口の中に入れることに抵抗がなくなる段階まで進んだら、次は実際に歯を磨いていきましょう。
歯を磨く時に歯ブラシをどのように口に入れたら、歯みがきを安全に行えるのかをお話しますので、ぜひ試してくださいね。
《歯の表側を磨く場合》
① 口角に人差し指をひっかけて横に引っ張る。
② 上唇と下唇の間に隙間が出来るのでブラシやガーゼを巻いた指を入れる
③ 嫌がらない程度に少しずつケアを行う
《歯の裏側を磨く場合》
① 奥歯の後ろの部分(臼後三角・きゅうごさんかく)を指で押すと、口が開きます。
ここは歯がない場所なので噛まれる心配がありませんが、体を動かすと危ないので注意が必要です。
4.お口を開けてもらうためにあると便利な開口グッズ
開口拒否をしている場合でも、虫歯や歯周病、誤嚥性肺炎の危険性がある場合は、多少強引に口腔ケアを行う必要があります。
しかし、嫌がって暴れてしまうと強い力で急に指を噛まれてしまったり、歯ブラシが口腔内に当たったりして、大変危険です。
お口を開けたままの状態をキープするための便利な開口グッズをご紹介します。
4-1 奥歯に噛ませて口を開く「バイトブロック」
シリコン製で奥歯に噛ませた状態で使用します。
使ったあとは水洗し乾燥しやすい場所に保管しておきます。
また、こちらは割りばしにガーゼを巻き付けても代用できます。
「バイトブロック」(NIKKO)
画像:楽天市場
4-2 「指ガード」を装着して奥歯で噛んでもらう
プラスチック製でできており、親指に装着して奥歯で噛んでもらうことで開口を保てます。
隙間から歯ブラシを差し込んで歯の裏側を磨きます。
使用後は水洗してよく乾燥させましょう。
「ゆびガード デンタルブロック」(オーラルケア)
画像:楽天市場
5.歯磨きのおすすめアイテム5つと使用法
ケアを受ける方にとっては出来る限り短時間で、きれいに出来る事が何よりも喜ばれることです。
そのために使用するおすすめのアイテムを紹介します。
口腔ケアには全部使用をお勧めしたいところですが、相手の様子や清掃状態によって組み合わせて使用しましょう。
5-1 基本の「歯ブラシ」選び
歯ブラシ選びは大切です。歯ブラシの植毛部分が上の前歯2本分くらいの大きさだと、奥歯に届きやすくて介護者にはおすすめです。
歯肉に炎症が起きていると出血もしやすいので、固さは「やわらかめ」。
使用後はしっかり水で汚れを洗い、立てた状態で乾燥させます。
そのために毛質は「ナイロン」が適しています。
「タフト24」(オーラルケア)
画像:オーラルケアHP
amazon
★歯ブラシは大きく動かさず、5~10mmくらい小刻みに横に動かす
★黄色い部分が磨き残しの多いところ。
下でご紹介する「タフトブラシ」や「歯間ブラシ」などの補助用具を使って、しっかり汚れを落としましょう。
画像:いずれもライオンHP
5-2 「歯磨き粉」は飲みこんでしまっても害のないものを
基本的には何もつけなくても問題はありませんが、歯磨き粉を付けて磨くとやはり、爽快感は違います。
飲みこんでしまっても体に害のない歯磨き粉を知っていますか?
「トライフ」というメーカーから出ている「オーラルピース」。
天然原料を100%使用し、化学合成添加物が一切含まれていないので、飲み込んでしまっても大丈夫なのです。
うがいが出来ない方にも安心して使用できますね。
歯磨きにつけてもスポンジにつけても使えます。
詳しくは、
『介護の歯磨きが劇的に変わる!訪問歯科の衛生士が教える上手な磨き方』
『高齢者の口腔ケア~介護者に知ってほしいお口のケアの必要性~』
『介護で使う歯ブラシならズバリ!これがおすすめ~必ずお役にたちます』
の記事も参考にしてみてください。
5-3 先の細い「タフトブラシ」
歯についている汚れを確実に落とすのなら、タフトブラシはぜひ使用していただきたいグッズです。
柄の先端が円錐状に形成された細いブラシで、歯並びの悪いでこぼこした部分や、根っこだけになってしまって歯肉に埋もれてしまった歯も良く磨けます。
狭い部分にピンポイントで届き、汚れが落とせるので、口の開きにくい方には最適です。
「プラウト」(オーラルケア)画像:Amazon
5-4 歯と歯のスキマを磨く「歯間ブラシ」
歯周病などで歯が抜けてしまうと、残った歯の隙間が少しずつ広がり、食べかすが詰まりやすくなります。
また、歯ブラシだけでは歯と歯の間のプラークを完全に取り除くのは難しいので、歯間ブラシはぜひ使用しましょう。
「DENT EX 歯間ブラシ」(ライオン)
画像:ライオンHP
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5-5 お口全体を掃除できる「スポンジ」
先端がスポンジで出来ている棒状のブラシです。
水で濡らしたスポンジで、歯、歯肉、頬の内側、上あご、舌の汚れをやさしくふき取ることができます。
うがいが出来ない場合、お口の中の水分をスポンジに含ませ取りの除くこともできます。
歯磨きした後の汚れた水分が口腔内に残ってしまうと、誤嚥性肺炎を起こす危険がありますので、スポンジに吸収させて、しっかり取り除くようにしましょう。
「ハミングッド」(モルテン)
画像:モルテンHP
amazon
6.まとめ
自分で歯磨きが出来なくなり、他人が口の中を覗き込んで、誰かに磨いてもらうことは、本人にとっては不快なことなのかもしれません。
最初はそんな思いからなかなか磨くことが出来ないかもしれませんが、歯を磨くことのさっぱりした爽快感はやはり気持ちが良いものだと思います。
根気強くゆっくりと慣れていただいて、ぜひ口腔ケアを行っていただけたらと思います。お役に立てましたら幸いです。