高齢化が進むと共に要介護者も2025年には約530万人に増加すると推計されています。しかし要介護者の口腔ケアの重要性に対する認識は、残念ながら高くはありません。なぜ口腔ケアを行うのか。口の中が不潔だとどんなことが起こるのかご存知でしょうか。要介護者に歯磨きをする際におすすめのグッズや、使い方の注意点をわかりやすくお話していきます。
目次
1.介護時の歯磨き・基本の3つのポイント
自分と向かい合った状態で人の歯を磨くのは、簡単なようで意外と難しいものです。どんなことに注意したらよいのでしょう。大人の歯磨きをする時の大切なポイントを考えていきましょう。
1-1 誤嚥防止のカギは体を起こして顎を引く
座った状態で磨くのが誤嚥を防止するのには安心ですが、ベッドで磨く場合は約30度起こして顎を引いた状態にします。上半身を起こせない場合は側臥位(そくがい:横向きに寝る状態)で行います。麻痺がある場合は麻痺側を上にします。いきなり磨かないで、必ず「歯を磨きますよ」と、声をかけましょう。
画像:カワモトHP
1-2 1日1回以上は磨くことが大切
基本は「食べたら磨く」が、理想です。体力や抵抗力が弱ってきている高齢者にとって、お口の中が不衛生になることはとても危険なことです。細菌や食べかすを取り除くことはとても大切です。1日に1回以上は歯みがきを行い、お口の中のチェックをしましょう。
1-3 うがいが難しい場合は拭き取ればOK
うがいをすることでお口の中の汚れを洗い流し、潤うことで乾燥を防ぎます。ただし、誤嚥の危険があるので少量の水でブクブクうがいをした後、しっかり吐き出すよう促します。首を前かがみにして飲み込まないよう気を付けます。うがいが上手く行えない場合は、ガーゼやスポンジで水分を拭き取ります。
2.口腔ケアが高齢者に大切なわけ
口腔ケアの目的は口の中を清潔にすると同時に、歯や口の疾患を予防することで、口腔の機能を回復し、健康保持と増進を図ることにあります。口腔内の細菌をコントロールすることが内科疾患、認知症と大きな関連性を持ち、高齢者の全身の健康に密接に関わりがあることが、近年の研究で明らかです。
歯みがきがうまく出来ないと細菌の塊であるプラーク(歯垢)が繁殖し、虫歯、歯周病の原因になるほかに、その細菌が関与するとされる代表的な全身疾患についてお話しします。どれも命に係わる怖い病気です。歯磨きの重要性がおわかりいただけると思います。
2-1 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
口の中の唾液や細菌(主に歯周病の原因菌)が誤って気道に入ってしまうことで起こる肺炎です。日頃のブラッシングや入れ歯の手入れをしっかり行いましょう。
2-2 狭心症・心筋梗塞
歯周病菌や炎症性物質が血液によって運ばれ、血管や心臓に達してしまうと動脈硬化を促進し、起こる病気です。お口の中を清潔に保つことは全身の健康を守ることにつながっています。
《意識障害や嚥下障害で食べられない方は?》
食べ物をお口の中に入れなくても、そのまま放置しておけば細菌の繁殖が進み、口腔内はどんどん汚れていきます。歯みがきが難しい場合でも工夫しながら口腔ケアを行いましょう。
3.必要な口腔ケアグッズ
歯をみがく時に必要なもの。基本になるグッズですが以下の3種類は口腔ケアには欠かせません。ぜひ用意して使っていただきたいものばかりです。そして、短時間で確実にきれいにみがくのには、使う順番も実はコツがあるのです。
歯間ブラシで歯と歯の間の汚れを押し出し、タフトブラシで歯と歯肉の間のプラークを取り除きます。最後に歯ブラシで歯の表面のプラークをみがいて、歯肉のマッサージをしていきます。
3-1 歯間ブラシ
歯周病などで歯が抜けてしまうと、残った歯の隙間が少しずつ広がり、食べかすが詰まりやすくなります。また、歯ブラシだけでは歯と歯の間のプラークを完全に取り除くのは難しいので、歯間ブラシはぜひ使用しましょう。
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《歯間ブラシの使い方のコツ》
歯間ブラシは細いサイズを選んで、歯の間に入れたら良く動かしてまんべんなくブラシの部分を当てていきます。被せ物の金属の下やブリッジの下に食べかすが入り込んでいることがよくありますので、必ず取り除きます。また、歯と歯の間の歯肉も出血しやすいポイントです。使い続けましょう。
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3-2 タフトブラシ
歯と歯肉の間に残ってしまうプラークを簡単に取り除けます。歯並びが悪く陰になる場所のブラッシングには欠かせません。根の部分だけが残っていたり、奥の方に1本だけ歯があったりすると、磨き残しやすいですが、そんな磨きにくい部位には最適なグッズです。
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《使い方のコツ》
タフトブラシは歯と歯肉の間に毛先を当てて、クルクルと回すように動かします。高齢者のお口の中には歯が根の状態で歯肉に埋もれていることがあり、プラークが溜まっているのをよく見ます。そんなところもタフトブラシでみがくと簡単にきれいになり、おススメです。
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3-3 歯ブラシ
歯ブラシ選びは大切です。歯ブラシの植毛部分が上の前歯2本分くらいの大きさだと、奥歯に届きやすくて介護者にはおすすめです。歯肉に炎症が起きていると出血もしやすいので、固さは「やわらかめ」。使用後はしっかり水で汚れを洗い、立てた状態で乾燥させます。そのために毛質は「ナイロン」が適しています。
《歯ブラシの動かし方》
歯みがきが上手く出来ていないと、歯の周りには大量のプラーク(歯垢)が付いていたり、歯の間に食べかすが詰まっていたりします。そのために歯肉が炎症を起こしていることが多く歯ブラシを当てると、出血するこ
とがあります。ブラシに力を入れずにやさしくマッサージをするように動かしましょう。ブラッシングを続けることで炎症が改善され出血もしなくなってきます。
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《磨き残すとどうなるでしょう》
プラークが残ってしまうと歯肉が炎症を起こして、赤く腫れて出血しやすくなります。酸を出し歯を溶かすことで虫歯が大きくなっていきます。プラークは時間とともに歯石に変わっていき、そこから出た毒素が歯を支えている骨を溶かすことで歯周病が進行します。このように磨き残したプラークは口の中の様々な病気の原因になります。磨き残しの多い場所に注意して歯磨きをしましょう。
←歯肉がプクッと腫れています
[磨き残しの多い場所]
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4.あると便利なおすすめの口腔ケアグッズ
基本の3種のほかに、おススメのケア用品を紹介しましょう。
4-1 歯みがき粉
食べられる歯磨き粉を知っていますか? 「トライフ」というメーカーから出ている「オーラルピース」。天然原料を100%使用し、化学合成添加物が一切含まれていないので、飲み込んでしまっても大丈夫なのです。うがいが出来ない方に安心です。
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4-2 ガーゼ
口腔内の汚れをふき取ります。介護者はゴム手袋を付け湿らせたガーゼを指に巻き、上の奥歯の外側から反対側→内側→下の奥歯の外側→内側というように、一周するように拭いていきます。歯だけではなく歯肉や頬の内側の汚れもふき取ります。
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4-3 360度ブラシ
どの角度からでも磨きやすいのが特徴です。高密度の毛量で汚れを絡め取るので奥歯の咬合面の汚れもしっかり取れます。
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4-4 舌ブラシ
口臭は虫歯や歯周病によって起こりますが、舌の上の汚れも原因のひとつです。舌専用のブラシを使用し、舌苔を取り除きます。舌に傷が付かないように力の入れすぎに注意し、誤嚥防止のためブラシを奥から手前に数回やさしく動かします。ブラシを往復させてはいけません。
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4-5 使い捨て口腔清掃用スポンジ
先端がスポンジで出来ている棒状のブラシです。水で濡らしたスポンジで、歯、歯肉、頬の内側、上あご、舌の汚れをやさしくふき取ることができます。うがいが出来ない場合、お口の中の水分をスポンジに含ませ取りの除くこともできます。
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4-6 口腔内用ジェル
お口の中の保湿剤です。減少した唾液を補い口腔内の乾燥を防ぎ、口臭の予防にも効果があります。こびりついた汚れに塗布し、ふやかしてから取り除くようにします。乾燥しているとブラシやスポンジ、指が触れただけで痛みがあったり、出血するなど、口腔ケアが困難になることもあるので注意が必要です。
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《乾燥を防ごう》
高齢者の多くはお口の中が乾燥しています。加齢による体の変化や薬の副作用などで唾液が減少することが原因です。唾液には殺菌作用や自浄作用など様々な役割があり、減少することでお口の中が汚れやすくなり、虫歯や口臭の原因になります。唾液が出る場所を軽くマッサージしたり、保湿剤を使用して乾燥を防ぎましょう。
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5.入れ歯(義歯)のケア
要介護者の方の多くは入れ歯を使用しています。お口や体の機能を維持するために大切な入れ歯です。食事の後には必ず外して手入れをしましょう。
5-1 義歯用洗浄剤
入れ歯についた目に見えない汚れや、細菌を取り除き、消臭効果があります。汚れや臭いが気になる場合は出来るだけ毎日、1週間に少なくても1,2回使用すると効果的です。就寝前に洗浄剤に付け、使用するときに必ず流水でブラシを使って良く洗います。入れ歯の表面に傷が付くと細菌が繁殖するので、研磨剤が入った歯磨き粉を使用してはいけません。
レジンの入れ歯のおすすめはコレ!
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金属床の入れ歯のおすすめはコレ!
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5-2 義歯用ブラシ
普通の歯ブラシでも代用できますが、入れ歯はバネ(クラスプ)やくぼみなど、複雑な形をしており、はずした入れ歯のヌルヌルした汚れをしっかり落とすには専用のブラシを使用するのがおすすめです。柄は握りやすくブラシ部分も硬さと形が違う2種類で出来ていて洗いやすいのが特徴です。
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《入れ歯と上手に付き合うには》
① 入れ歯は起きている間は、お口に入れているのが基本です。歯は少しずつ動いているので、長い間外していると合わなくなってしまいます。食事や会話だけでなく、万が一転倒しそうになったとき、歯を食いしばることで転倒防止つながります。
② 逆に就寝時は入れ歯を外し、歯と入れ歯をきれいに磨き、水(洗浄剤を入れた水)を入れた容器に保管し、口腔粘膜を休ませましょう。小さな入れ歯を誤飲することも防ぎます。
③ 入れ歯はデリケートです。洗っている最中に落としてしまうと、割れたり、バネが曲がったりしてしまいます。瞬間接着剤で付けたり、バネをペンチで直したりせず、歯科医院にご連絡ください。
入れ歯について詳しくは「歯科医師監修!入れ歯洗浄剤を選ぶポイントとおすすめ洗浄剤」をご覧ください。
6.まとめ
歯みがきの最中、突然むせたり咳をして動いてしまうことがあります。そんな時に歯ブラシがお口の中にあったら危ないですね。「安全」には常に注意が必要です。歯磨きを嫌がったり、体調が悪いときはお休みも大切です。決して無理をしない事です。
自宅に訪問して口腔ケアや治療を行う歯科医院がたくさんあります。ケアマネージャーに紹介してもらったり、インターネットで探すと簡単に見つかります。歯科医師や歯科衛生士に定期的な管理を依頼すると安心です。